伝統文化を知る

2025.12.25

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週刊メールマガジン「伝検通信」 第88号

週刊メールマガジン「伝検通信」第88号をお届けします。

今週のトップ記事は、白洲信哉さんの「多様なるジャパン」第14回、日本の深層文化をめぐる話題をお伝えします。

「クイズで肩慣らし」は、前回クイズの答え・解説と、「陶磁器」の問題です。

第3回伝検(2級、3級)は、来年1月12日(月・祝日)まで実施しています。申し込みは、こちらから現在受け付け中です。ぜひ、下記、公式テキスト、オンライン講座をご活用の上、チャレンジしてみてください。

伝検公式教材・参考書・サイト https://denken-test.jp/official_text/


目次

・ 「多様なるジャパン」 第14回 神像
・ 「クイズで肩慣らし」 第87回=「陶磁器」
・ 伝検協会だより


「多様なるジャパン」 第14回 神像

白洲信哉=文筆家、日本伝統文化検定協会副会長

僧形八幡(個人蔵)

6世紀中ごろ仏教が伝来すると、斑鳩(いかるが)や飛鳥の地に寺院が建ち、仏像が輸入、鋳造されるようになる。人々は突如出現したきらびやかな異物に驚き、200年たったころ外来の文化に圧迫された僕らの魂がしびれを切らし爆発し、噴火山の如(ごと)く生まれた一つが神像だ。

深層文化の根っこは、本居宣長(江戸時代の国学者)が「可畏(かしこ)きもの」とした山に石や滝など、縄文以来培ってきた自然そのものをご神体としたアニミズム的信仰心である。三種の神器といわれる鏡、剣、玉や松など、遊行しているカミが降臨する依代(よりしろ)に加え、仏像に対するメイドインジャパンの偶像が彫られたのだ。我々祖先のお姿として親しみを感じるが、本来明確なお姿をもたない八百万(やおよろず)という多くのカミのお姿を表現するのは容易ではなかった。土地特有の産土(うぶすな)神のイメージにムラの長(おさ)的な人物や姫君の風貌を礎に仏師は想像力を膨らませ、仏像と遜色ない神像が誕生したのだ。

前回、聖武天皇の新都造営について少し触れたが、一代一都から恒久的都への完成期に、神宮の遷宮的常若(とこわか)の神道思想と恒久的仏教の国家運営が混交していく。8世紀中ごろ神社において神宮寺が建てられ、例えば神宮の伊勢大神宮寺に丈六(高さ約4.8メートル)の仏像が造られたり(続日本紀)、東大寺の手向山八幡のような大寺の中にカミが鎮護に迎えられたりする。天皇は遠く宇佐の地(現在の大分県宇佐市)に大仏鋳造のお願いをわざわざ遣わし、八幡神が上京し神仏習合の礎になる。僧形(そうぎょう)の八幡神像という誠にユニークなお姿のその時代に下る遺例はないが、平安時代以後、仏教の表現を通して僕らがこだわったのは先に根っことしたアニミズム的表現である。仏の形をまねてカミを表現したが、例えば落雷にあい倒木したご神木に、カミの姿を刻むことで怒りを鎮めると同時に、樹木に対する信仰の深さから材そのものにカミが宿ると節や根を残し木取りし、ご神体として具現化したのである。

神像に神宮寺などがなじみのないのは、明治御一新(ごいっしん)の神仏分離を発端とした廃仏毀釈(きしゃく)がきっかけだ。神像草創期の遺品である京都松尾大社の優美な一木等身大の坐像もそこの神宮寺に鎮座していたが、各地大社の神宮寺はその折りに撤去され、御正体(みしょうたい)も取り出されてしまう。だが、八幡大菩薩に代表される神と仏は表裏一体のデュアルな歩みこそが僕ら伝統文化の根幹なのである。国家神道という近代日本負の遺産に偏った視座にたってはならないし、そこに至る千年を超える遥(はる)かなる神仏世界こそ僕ら文化の結晶なのだ。


「クイズで肩慣らし」 第87回=「陶磁器」

~伝統文化に関するさまざまな話題をクイズ形式でお届けします~

今戸神社(東京都台東区)本殿の招き猫

第87回

問題:縁起物として海外でも人気のある招き猫の焼き物。元祖とされる今戸焼(東京都)には見られず、戦後の常滑焼から現れた特徴は何でしょう。(答えと解説は次号で)


京都・盧山寺の護符。同寺は紫式部の邸宅跡で、「源氏物語」執筆の地とされています。

【前回クイズの問題と答え・解説】
問題:京都の家で戸口に貼られていることも多い、写真の護符(お守り札)はある人物の伝説を元にしています。その人物は誰でしょう。

答え:良源(角大師)

解説:
写真は「角(つの)大師護符」と呼ばれる護符。平安時代の比叡山延暦寺の高僧・良源に由来し、天台宗の寺で配布するところもあります。良源は強い法力と人気があったため、多くの伝説と異名(元三大師、慈恵大師、角大師、降魔大師、豆大師など)があります。疫病がはやった際、人々を救うために自分の姿を鏡に写すと、痩せた鬼のような見た目に変わりました。その姿を弟子が描いて刷って配ると、札を貼った家は災禍に遭わなくなったといわれます。なお、良源はおみくじの元祖としても知られています。


伝検協会だより

今年最後の協会だよりになります。伝検の第3回試験は来年1月12日(月・祝日)まで実施していますが、今年も皆さまに「伝検通信」をご覧いただき、誠にありがとうございました。来年は午(うま)年。着物店などでは、干支(えと)に絡めて、9頭の馬が走る刺しゅうを入れたハンカチが売られているのを見かけます。皆さまにとって、何事にも「うまくいく」一年になりますよう、お祈り申し上げます。よい年をお迎えください。

協会事務局は12月27日(土)から来年1月4日(日)まで、年末年始で休業いたします。


【編集後記】
あっというまの年末で、本日はクリスマス。協会のある東銀座あたりも華やかなイルミネーションや飾り付けで、街行く人たちの気分を盛り立てています。今年も残り僅かとなりました。読者の皆さまの一年はいかがでしたか。年末年始は伝検テキストで伝統文化を学びたいと思います。来週の本通信はお休みとなり、次回は1月8日(木)の配信となります。どうか良いお年をお迎えください。

関連タグ: #陶磁器 #木漆工 #文様

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