2026.01.22
コラム/エッセイ世襲だけではない歌舞伎界―半数以上が一般家庭出身者
時事通信記者 中村正子

立ち回りは門閥外の俳優にとって大事な活躍の場。国立劇場養成所の研修でも多くの時間をかける
(国立劇場養成所提供)
大ヒット中の映画「国宝」は、任侠(にんきょう)の家に生まれた主人公が歌舞伎の名門の御曹司と切磋琢磨(せっさたくま)しながら芸を究めていく物語。歌舞伎は世襲制のイメージがありますが、実は現在活躍中の歌舞伎俳優の半数以上が、いわゆる“梨園(りえん)”の出身ではありません。
現代の歌舞伎界を代表する女形で人間国宝の坂東玉三郎さん(75)は東京の料亭の生まれ。幼い頃から日本舞踊を習い、その縁で十四代目守田勘弥(1907~75年)の部屋子となりました。部屋子とは、師匠の楽屋で学ぶ特別な弟子のこと。その後、養子に迎えられ、64年に五代目坂東玉三郎を襲名。長身の美貌の女形として圧倒的な人気を集め、今日まで数々の名舞台を見せてきました。
立役として活躍する片岡愛之助さん(53)は大阪・堺の一般家庭の出身。子役として歌舞伎に出演して片岡秀太郎(1941~2021年)の目に留まり、その父の十三代目片岡仁左衛門(1903~94年)の部屋子に。92年に秀太郎の養子として六代目片岡愛之助を襲名し、上方歌舞伎のホープとしての期待を背負って精進してきました。
愛之助さんは1月の大阪松竹座では古典の大役である「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 祇園一力茶屋(ぎおんいちりきちゃや)」の大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)を演じており、3月の東京・新橋演舞場を皮切りに名古屋・御園座、京都・南座、福岡・博多座で上演される新作歌舞伎「流白浪燦星(ルパン三世)」では主演するなど、幅広い活躍が続きます。
玉三郎さん、愛之助さんと似たケースが、2019年に人間国宝の中村梅玉(ばいぎょく)さんの部屋子から養子となった中村莟玉(かんぎょく)さん(29)で、女形を中心に立役としても活躍。また、中村獅童さん主演の「超歌舞伎」シリーズの敵役でブレークした澤村精四郎(きよしろう)さん(47)の場合は、実力と人気が認められて24年に師匠の澤村藤十郎さんの芸養子となり、藤十郎さんの前名を襲名して幹部昇進を果たしました。
歌舞伎俳優は「名題(なだい)」と「名題下(なだいした)」に大別され、門閥外の俳優は名題下俳優から修業し、試験を受けて合格すると名題に昇進する資格を得ます。さらに実力が認められて幹部に昇進すると、大きな役が付くようになります。
歌舞伎の名跡は親から子、子から孫へと血筋により継承されていくイメージがありますが、江戸時代には才能のある弟子に名前を継がせることもありました。戦後、伝統芸能離れなどから歌舞伎俳優に弟子入りする人が減る中、国の事業として1970年に始まったのが、一般家庭出身者を対象に基礎を教える国立劇場養成所の歌舞伎俳優研修です。修了後は幹部俳優に弟子入りし、武士や町人などの脇役や立ち回りを担うほか、芝居や踊りの小道具の出し入れや衣装の早替えなどを行う「後見(こうけん)」を勤めます。映画「国宝」で「二人道成寺」を踊る俳優の赤い振り袖を、後見が背後からパッと引き抜いて衣装を変化させていましたが、踊りの流れが頭に入っていないと務まらない大事な仕事です。
現在、約300人の歌舞伎俳優の3分の1が養成所出身で、彼らの存在なしに歌舞伎の舞台は成り立ちません。2021年に人間国宝の中村歌六(かろく)さん(75)に弟子入りした中村蝶也さん(22)は24期生。とんぼ(立ち回りを派手に盛り上げる宙返り)が得意で、養成所の研修の手伝いにも呼ばれるほどです。「僕たちがとんぼを返らないと芯(主役)の方もカッコ良く見えないし、強くも見えない。後見がいなければ芝居も進みません。歌舞伎を支えているという誇りはみんなが持っています」と話します。
19期生の市川新次さん(37)は市川團十郎門下で、歌舞伎のだいご味である立ち回りをつくる立師(たてし)を目指して修行中。「僕たちは決してスターになろうと思って一門に入ったのではありません。歌舞伎がここまで続いてきたのは誰かが伝えてきたから。伝えていく、つないでいくのは基本だと思います」と力を込めました。
近年、養成所の2期生の中村歌女之丞(かめのじょう)さん(70)と中村梅花(ばいか)さん(75)が相次いで幹部に昇進。主役でなくとも芝居の要となる大きな役を演じて、後輩たちの励みになっています。歌舞伎は
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