伝統文化を知る

2024.08.01

コラム/エッセイ

三菱UFJ、伝統工芸の魅力発信―次世代へ継承、海外にも活路

リンゴを模した南部鉄器の鉄瓶。注文から納品まで約9カ月待ちの人気の品

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、日本の伝統工芸品の魅力発信に注力している。深刻な後継者不足に直面する伝統工芸産業を盛り上げ、次世代への継承に一役買いたい考え。海外市場にも活路を見いだすため米ニューヨーク・マンハッタンで6月上旬に開いたイベントでは、後継者育成の視点や現代生活に即した実用性も重視した作品が並んだ。

◇生産額8割超減少

伝統的工芸品産業振興協会(東京)の調べによると、2020年度に伝統的工芸品の生産に携わる従業員数は5万4000人、生産額は870億円。いずれも1980年ごろと比べて8割超も減り、落ち込みに歯止めがかからない状況だ。産業構造の変化や、市中に安価な製品があふれていることなどが要因とみられる。

社会・経済環境の変化を背景に技術継承や一部原材料の確保なども難しくなる中、こうした事態に対策が打たれなければ、地方経済の活力が一段と失われる可能性がある。MUFGは社会貢献活動の一環として、文化の保全・伝承が重要と判断し、昨年8月にプロジェクトを立ち上げた。

プロジェクトは「時代に合った革新が無いと生き残っていけない」(担当者)との視点に立ち、伝統を重視しながらも日常生活への浸透なども意識した創作活動を後押しする。国内外での展示会や情報発信に加え、後継者育成を目的とした奨学金といった支援制度も検討。関係省庁や関連団体などと連携し、伝統工芸産業を応援する仕組みづくりを目指すとともに、全国各地の支店を通じた伝統工芸品の掘り起こしも進める。

◇新人も全工程学ぶ

6月にニューヨークで行われたイベントでは、岩手県の工芸品である南部鉄器や、京都府の西陣織を使ったクッション、おけを活用したワインクーラーなど計約20作品を展示した。

リンゴを模した南部鉄器の鉄瓶は、ごつごつした模様を施した従来のものと比べてシンプルなデザインが特徴だ。鉄瓶を手掛ける職人の田山貴紘さんは「家庭で使ったときになじみやすく、シンプルなデザインを好む消費者が多い」と説明。現在、注文から納品まで約9カ月待ちの状況という。

鉄瓶を手に取った来場者からは「完璧なデザインだ」「色合いがいい」といった感想が聞かれた。

南部鉄器の全工程を一人でこなすには、30年程度の修業が必要とされる。ただ、こうした慣習は「新たなチャレンジ」(田山さん)を阻害しかねないためデザインを簡素化し、1年目からすべての工程を学ぶ育成方法に変更した。技術を早く身に付けてもらうことで、後継者確保につなげる狙いもある。

MUFGが国外でイベントを開くのは昨年9月のフランス・パリに続き2回目。プロジェクトの総合監修を務める東京芸術大の秋元雄史名誉教授は「米国は良い物に敏感な人が多く、丁寧な作りの製品を評価する場所だ」と意義を強調した。伝統工芸が乗り越える課題として、「工程を複雑にする装飾技術が本当に必要かどうか疑い、どの部分を残すかという判断がリノベーションの上で重要だ」と指摘した。

▼時事通信社「金融財政(2024/06/24日号)」より

▼MUFG工芸プロジェクトのリンク
MUFG工芸プロジェクト 三菱UFJフィナンシャル・グループ


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