伝統文化を知る

2024.08.29

コラム/エッセイ

伝統文化の担い手育成=松竹が「歌舞伎寺子屋」

公演に向け稽古に励む子どもたち(写真上)
松竹のこども歌舞伎「贋作桃太郎 百桃かたり」(写真下=いずれも松竹提供)

伝統文化の担い手を育てていかなければ、知ってもらう前にその文化自体がなくなってしまう―。歌舞伎の制作・興行を手掛ける松竹は東京・東銀座の歌舞伎座内に「こども歌舞伎スクール寺子屋」を開き、歌舞伎の演技や日本の礼儀作法などを教えている。日本舞踊部門の統括講師を務める藤間勘十郎さんは、将来への危機感をにじませながらも「親子3代で楽しめる歌舞伎にしていきたい。寺子屋で学んだ中から歌舞伎俳優や日本舞踊家になる子どもがたくさん出てくれるとうれしい」と笑顔で前を向く。

◇ファンの裾野拡大へ

ぴあ総合研究所の「ライブ・エンタテインメント白書」によると、歌舞伎の市場規模は2000年以降、コロナ禍で落ち込んだ2020年など数年を除き、ほぼ200億~250億円規模で推移しているが、歌舞伎界で先行きへの懸念は強い。松竹は「歌舞伎をはじめとする伝統芸能は観客が世代交代し続けることが大切。若い人にも興味を持ってもらい、裾野を広げなければならない」と受け止めている。勘十郎さんも「現在、歌舞伎の興行に携わるのは数百人程度にすぎない。このままでは歌舞伎文化が残せなくなるかもしれない」と顔を曇らせる。

松竹は2014年に、歌舞伎を通して日本の伝統文化を体験してもらうとともに、若手の教育や育成を目的として、寺子屋を開校。対象は4歳から中学生までで、現在、約120人が学んでいる。

授業は「基礎」、次に「発展」のコースが各1年間あり、3年目以降、希望者は「前進」に進む。さらに歌舞伎に関わる職業に興味がある場合は、中学生部門の「歌舞伎」「女子舞踊」コースが用意されている。基礎コースでは、浴衣の着付けや和装での立ち居振る舞い、礼に始まり礼に終わるといった日本の伝統的な礼儀作法に加え、歌舞伎や日本舞踊の演技の基本を学ぶ。発展、前進コースでは、より実践的な稽古などを行い、「歌舞伎の子役養成にもつながっている」(松竹)という。

◇和を知り、感性を磨く

今月には、寺子屋の子どもたちが、オリジナル舞踊劇「贋作桃太郎 百桃(もももも)かたり」を歌舞伎座タワーのホールで公演。昔話「桃太郎」を基に、松竹の歌舞伎脚本家の戸部和久さんが書き下ろし、勘十郎さんが演出・振り付けを手掛けた。

前進コースの18人が参加し、2日間で約230人の観客を前に1年間の稽古の成果を披露。戸部さんは「(伝統を伝えるためには)道具や衣装はもちろん、スタッフも一流をそろえ、本物を子どもたちに経験させることが大切」と指摘。せりふや振り付けなども子ども向けではなく、大人と同じにした。「伝統文化に挑ませたい」(勘十郎さん)というのが狙いだ。

桃太郎役の岩瀬颯太さん=小学6年=は公演を終え、「これからも多くの人に日本の伝統文化を伝え、海外にも広めていきたい」と夢を語る。グローバル化が進む一方で、若い世代を中心に伝統文化に触れる機会が少なくなっており、戸部さんは「和の心を知ることが、他国の文化の理解につながり、子どもたちの豊かな感性を磨くことになる」と意義を強調している。


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