伝統文化を知る

2025.09.18

伝検ニュース

備前市美術館がオープン―陶芸文化の新たな発信拠点 

7月にオープンした備前市美術館=岡山県備前市(写真/時事通信)

伝統産業を基盤に、地域資源を生かした持続可能な発展を目指す岡山県備前市。7月には、代名詞とも言える備前焼や備前の現代陶芸を中心とした備前市美術館がオープンした。旧備前焼ミュージアムを解体して新築したもので、現代美術、建築、デザインなど陶芸につながるアートを紹介するのも特徴。陶芸文化の新たな発信拠点として注目の施設だ。

美術館があるのは、備前焼の里として知られる伊部(いんべ)地区。近くには国の指定史跡で、明治以前に稼働していた大規模な窯の跡が残る。操業を続ける窯元の茶色い煙突が所々に見える。

エントランスは開放感のある吹き抜けで、重要無形文化財保持者(人間国宝)の伊勢﨑淳氏が制作した高さ約7メートルの備前焼のモニュメント「土と炎の記憶」がそびえ立つ。

◇幅広いアートから刺激

1階の歴史展示室では、平安時代末期の備前焼の誕生から現代までが32組の展示品とともに紹介されている。太平洋戦争時に国策で製造された備前焼の手りゅう弾も展示されており、日本の窯業が経た意外な歴史に気づかされる。

現在、開館記念として「ピカソの陶芸-いろとかたちの冒険-」と「備前の現代陶芸:至極の逸品(前期)」の二つの特別展が開催中。ピカソの陶芸では版画2点を含む38点、備前の現代陶芸では人間国宝、精鋭作家ら37人による41点が展示されている。

備前市美術館のコンセプトの一つは館名に見て取れるかもしれない。そこに前身のミュージアムにはあった「備前焼」はない。備前焼を紹介し、その振興に資することは館の当然の命題ではある。一方で、「備前焼しか見せないのではなく、いろいろなもの(アート)も見てもらう中で備前焼の奥の深さを知ってほしい」。備前市教育委員会美術館活動課の林順一学芸担当課長はそう話す。

その思いは作家にも向けられている。「備前焼だけを見ていたら分からないこともある。(陶芸と)違う世界の人(アーティスト)の作品や制作過程から、創作につながる刺激、ヒントを得てくれれば」(林課長)というわけだ。特別展「ピカソの陶芸」はその第1弾となる。

◇備前焼の可能性感じて

画家パブロ・ピカソ(1881~1973)は1946年、65歳で南仏バロリスを訪れた際に陶芸を始め、91歳で没するまでに3500点を超える陶器作品を残した。特色は、ピカソのオリジナル作品(原型陶器)を基に、バロリスにあるマドゥーラ陶房が協働して版画のように複数制作されている点。

太田珠音学芸員は「ピカソと窯元とが連携した制作、いわばアーティストと地域が一緒になっての創作であることが特徴」と解説する。展示作品の多くはモチーフ、色彩、形のいずれもが独創的で、一見してピカソの作品であることが分かる。

もう一つの特別展「備前の現代陶芸」では、人間国宝の伊勢﨑淳氏の「風雪」や矢部俊一氏の「想景」など、備前焼の重厚な質感と現代アートの要素が融合したオブジェが目を引く。ピカソの陶芸展と合わせ、備前焼の可能性を感じさせる。

「ピカソの陶芸―いろとかたちの冒険―」は9月28日まで。「備前の現代陶芸:至極の逸品」は開催中の前期が9月28日まで、後期は10月11日から12月25日まで。

(2025年8月28日、時事通信配信)


カテゴリー: 伝検ニュース

TOP