伝統文化を知る

2025.11.06

伝検通信(メルマガ)

週刊メールマガジン「伝検通信」 第81号

週刊メールマガジン「伝検通信」第81号をお届けします。

今週のトップ記事は、着物雑誌「七緒」の連載コラム「はじまりのころも」から能の「葵上」をめぐる話題をご提供いただきました。

「クイズで肩慣らし」は、前回クイズの答え・解説と、「和紙」の問題です。

第3回伝検(2級、3級)は11月1日(土)に始まり、来年1月12日(月・祝日)まで実施します。申し込みは、こちらから現在受付中です。ぜひ、下記、公式テキスト、オンライン講座をご活用の上、チャレンジしてみてください。

伝検公式教材・参考書・サイト https://denken-test.jp/official_text/


目次

・ はじまりのころも・葵上
・ 「クイズで肩慣らし」 第80回=「和紙」
・ 伝検協会だより


はじまりのころも・葵上

安田登=能楽師、関西大学総合情報学部特任教授

イラスト=山川 石

「葵上(あおいのうえ)」という能があります。葵上とは光源氏の正妻の名です。

舞台がはじまると、無音の中、畳んだ小袖(着物)を大事そうに持った人が現れます。やがて舞台の正面前方に置き、そして丁寧に広げる。そして、引っ込んでしまう。

ただ着物を置くだけなのに、儀式のような荘重な動き。能を観(み)慣れない人は戸惑います。実は、この小袖が病床の葵上なのです。

「葵上」は、光源氏の年上の恋人である六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の生霊が、正妻・葵上を取り殺そうとする能です。それを阻止しようとする横川(よかわ)の小聖(こひじり)という修験者や霊媒の巫女(みこ)も登場します。しかし、もっとも大切な登場人物である葵上は能には登場せず、小袖がその役をするのです。

「見立て」という言葉があります。これは、本来は見ることによって、そこに何かを出現させてしまう行為を言いました。能「葵上」の小袖もそうです。六条御息所の生霊も、修験者である横川の小聖も、この小袖に向かって演技をします。すると、そこに何かが立ち上がってくるのが見えるのです。

「衣には思い出が残る」と能では謡います。「思い出」とは、思いが出てくること。思念の出現です。「念」という字は「覆い(今)」の下に心があります。葵上は自分の本心を言えずに、さまざまな「念(おも)ひ」を衣の下に隠して生きていた人です。その「念ひ」を出現させるためには、生身の人間よりも「衣」だけの方がいい。そして、それほど大切な役割の装束なので、儀式のような丁寧な動作が必要になる。衣は丁寧に扱いましょう。

文=安田登 
イラスト=山川 石
「七緒」(プレジデント社)VOL.76 より

安田 登(やすだ・のぼる)
能楽師のワキ方として活躍する傍ら、能のメソッドを使った作品の創作、演出、出演を行なう。関西大学総合情報学部特任教授。近著に「学びのきほん 使える儒教」(N H K出版)ほか著書多数。


「クイズで肩慣らし」 第80回=「和紙」

~伝統文化に関するさまざまな話題をクイズ形式でお届けします~

群青色が印象的なだるま

第80回

問題:写真のだるまは、宮城県の伝統工芸品です。名称は何でしょうか。(答えと解説は次号で)


1998年には奈良県天理市の黒塚古墳から32枚が発見された(時事)

【前回クイズの問題と答え・解説】
問題:日本国内で金工が始まったのは弥生時代だと考えられています。当時のものとされる写真のような青銅製の銅鏡を何というでしょう。

答え:三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)

解説:
銅鏡は祭事に使われ、権威の象徴でした。写真の銅鏡は縁の断面が三角で、裏面に仙人と霊獣が描かれているのが特徴です。弥生時代に中国の魏から邪馬台国の卑弥呼に贈られた銅鏡ではないかといわれますが、当時の日本国内で作られたにしては高品質である一方、中国大陸では一つも出土しておらず、考古学上の謎になっています。国内各地で見つかっており、奈良県天理市ではマンホールのデザインにもなっています。


伝検協会だより

▼伝検の第3回試験が11月1日、始まりました。今回も2級と3級で実施しています。初日から早速、合格者が出ており、受験者の皆さまには感謝申し上げます。試験は全国約300カ所のCBTテストセンターで受験可能で、来年1月12日(月・祝日)まで実施します。受験の申し込みは1月9日(金)まで受け付けております。
改めて、CBT方式の出題についてご説明します。2級は100問、3級は80問出題されますが、期間中いつでも同じ問題が出るわけではありません。あらかじめ2級、3級とも事前に出題数を大幅に上回る数の問題が用意されています。これを問題バンクといいます。問題の保管庫のようなもので、受験時によって、そこからランダムに所定の数の問題が出される仕組みです。今回の場合、問題バンクの中身は10月中に確定しており、試験期間中に変更されることはありません。

▼伝検協会の賛助会員である三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が協力する「工芸アートフェア金沢」が、11月28日(金)~30日(日)の3日間、石川県金沢市で開催されます。なお今年は、工芸品で飲食を楽しめる「MUFG Lounge」が用意され、ラウンジ内では若手作家の作品展示も行われる予定です。
詳しくはこちらをご覧ください。

▼伝検の合格者特典に割引サービスをご提供いただいている「和える」(株式会社和える(aeru)―日本の伝統を次世代につなぐ―)の東京直営店「aeru meguro」が11月11日(火)夜、テレビ東京の「東京GOOD!TREASURE MAP」(21時55分から5分)に登場します。番組では全国各地の職人とともに展開する「0歳からの伝統ブランドaeru」をはじめ、金継ぎなどが紹介されます。放送は関東地区ですが、放送終了後に東京都公式動画チャンネル「東京動画」(https://tokyodouga.jp/infomation/pr/tokyo-good)でも配信されますので、ご覧になってみてください。


【編集後記】
明日11月7日は、二十四節気でいうと立冬。暦の上では冬に入ります。鍋料理など温かいものがおいしい季節ですが、今年、気になるのはクマの出没。東北地方では深刻な事案も起きていて、冬眠の時期になれば市街地での出没も減り、少しは安心できるのでしょうか。自然との付き合い方を考えさせられます。

関連タグ: #金工 #和紙 #芸能

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