伝統文化を知る

2026.01.08

伝検通信(メルマガ)

週刊メールマガジン「伝検通信」 第89号

週刊メールマガジン「伝検通信」第89号をお届けします。
本年もよろしくお願いいたします。

新年最初のトップ記事は、伝検協会副会長で工芸史の第一人者、外舘和子さんの新連載コラム「工芸文化の諸相」です。工芸全般にわたって、そのありようについて寄稿していただきます。第1回は和食器の魅力です。

「クイズで肩慣らし」は、前回クイズの答え・解説と、「金工・木漆工」の問題です。

第3回伝検(2級、3級)は、1月12日(月・祝日)まで実施しています。申し込みは明日までこちらから受け付け中です。ぜひ、下記、公式テキスト、オンライン講座をご活用の上、チャレンジしてみてください。

伝検公式教材・参考書・サイト https://denken-test.jp/official_text/


目次

・ 「工芸文化の諸相」 第1回 漆塗りのスプーン
・ 「クイズで肩慣らし」 第88回=「金工・木漆工」
・ 伝検協会だより


「工芸文化の諸相」 第1回 漆塗りのスプーン

外舘和子=多摩美術大学教授、日本伝統文化検定協会副会長

小石原焼の皿と漆塗りスプーン(筆者提供)

「和食;日本人の伝統的な食文化」は2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されたほど、国際的な評価を得ている。洋食と和食の違いは、食材の扱い方や、ソースの文化と出汁(だし)の文化などさまざまあるが、食器やカトラリー(スプーン、フォーク、ナイフなど)の違いも大きいだろう。

平らな円形を基本とし、色や模様も統一感のあるプレート状の洋食器に対し、和食器は豆皿、小鉢、向付(、むこうづけ)、長方皿など個々に深さや形、サイズが異なる上、色も質感も多様である。洋食器の「そろえる美意識」に対する、和食器の「取り合わせる美意識」は茶道にも通じ、対照的である。食器の形状に従い、自然と盛り付けも、洋食は平面的に、和食は立体的に盛り付けられる傾向がある。提供される器のレベルが、料理人や店のレベルを示すこともしばしばである。

食器のうちでも和食を特徴づけるのは、塗り物の存在であろう。漆器の汁椀(わん)はもちろん、飯椀にも漆器が用いられることがある。さらに、塗り物は箸をはじめ、カトラリーに威力を発揮する。西洋のカトラリーは金属が基本だが、日本では木製や竹製の塗り箸のほか、今日では漆器の産地において漆塗りのスプーンなどが作られている。

私は十数年前から、金属製スプーンだけでなく、漆塗りのスプーンも愛用している。試しに、ヨーグルトを塗りのスプーンで食してみてほしい。金属のスプーンよりも、まろやかでとろりとした感じを舌全体で得られるはずである。プリンやゼリーも試す価値がある。カレーライスなども優しい味わいになるようだ。歯に当たる際も、いたってソフトである。

西洋で主流の磁器の食器はシャープな金属カトラリーにもふさわしく、また皿の上で肉を切る際には金属ならではの鋭い刃が必要だが、日本の食器には陶器も多く、和食は料理自体も箸で挟み、つまむという類のものが多い。笠間焼のある作家は「私の皿には、できれば金属のナイフなどは避けてください」と語っていた。木製などの漆塗りのカトラリーは、人だけでなく和食器にも優しい。

もちろん、金属のひやりとした感覚で食したい料理もあるだろう。要は、使用する器やカトラリーによって、料理の味わいが変化するということである。料理は、いうまでもなく五感で楽しむものだが、特に味覚は、視覚や嗅覚、触覚も含めたものである。卓上の風景を鑑賞し、器やカトラリーの手触りを楽しみ、口の中でさらに舌ざわりを楽しむ。漆塗りスプーンは、いわば西洋のカトラリー文化を日本流にアレンジしたものだが、そうしたアイデアが食文化を豊かにしていくのである。西洋の人々にも、漆塗りのスプーンでヨーグルトやスープを試していただきたいところである。

外舘和子(とだて・かずこ)
多摩美術大学教授、愛知県立芸術大学客員教授、工芸評論家、工芸史家。2002年英国テート・セント・アイブス「Kosho Ito Virus」をはじめ国内外の美術館・大学等で展覧会監修、図録執筆、講演を行う。日展、日本伝統工芸展、韓国・国際工芸ビエンナーレ、世界陶磁ビエンナーレなど国内外の公募展の審査員を務める。
受賞歴:2005年菊池美術財団論文賞(最高賞)、2014年台湾・国際キュレーションビエンナーレでベスト8に選出、表彰される。
主著:「日本近現代陶芸史」(阿部出版)/「Fired Earth, Woven Bamboo: Contemporary Japanese Ceramics and Bamboo Art」(米ボストン美術館)/「中村勝馬と東京友禅の系譜」(染織と生活社)/「現代陶芸論」(阿部出版)


「クイズで肩慣らし」 第88回=「金工・木漆工」

~伝統文化に関するさまざまな話題をクイズ形式でお届けします~

設問の上級官僚が描かれている浮世絵。吉岡芳年 「中納言行平朝臣、須磨の浦に左遷され村雨・松風二の蜑に逢ひ、戯れるの図」

第88回

問題:平安時代の歌人の名前に由来するという説もある調理器具は何でしょう。(答えと解説は次号で)


今戸神社(東京都台東区)本殿の招き猫

【前回クイズの問題と答え・解説】
問題:縁起物として海外でも人気のある招き猫の焼き物。元祖とされる今戸焼(東京都)には見られず、戦後の常滑焼から現れた特徴は何でしょう。

答え:小判を抱えている

解説:
1950年代に愛知県常滑市周辺の常滑焼の窯元で小判を抱えた招き猫が作られるようになりました。鈴が変化したといわれており、そこからさまざまな物を招き猫に持たせることでバリエーションが増えました。招き猫の三大窯元は常滑焼、瀬戸焼、九谷焼です。一方、今戸焼は東京都台東区周辺で江戸時代から明治時代に最盛期を迎えましたが、現在は地域に1軒しか窯元が残っていません。


伝検協会だより

▼明けましておめでとうございます。第3回伝検は1月12日(月・祝日)までです。これから受験する方のご健闘を祈念します。検定実施中ではありますが、今年も検定試験を中心に、オンデマンド動画講座や公式サイト、メールマガジン、イベントなどで日本伝統文化を学び、楽しめる場を提供して参ります。どうぞよろしくお願いいたします。

▼協会会員のかがわ県産品振興機構が主催する、香川県の伝統工芸品を集めた「かがわ展―伝統の逸品」が1月31日(土)まで東京都内で開かれています。会場は同じく協会会員のメイド・イン・ジャパン・プロジェクト株式会社が運営する東京ミッドタウンの「THE COVER NIPPON」と、帝国ホテル東京の「いい日になりますように THE COVER NIPPON 帝国ホテル店」の2店舗。香川漆器や讃岐かがり手まりなど多彩な工芸品が展示販売されています。
詳細はこちら(かがわ展 ― 伝統の逸品 || THE COVER NIPPON


【編集後記】
今年の年末年始は最長9日間の連休となりました。皆さま英気を養われたでしょうか。帰省したり、自宅でゆったり過ごしたり、旅行したりと充実した休暇となったのではないかと思います。ところで正月の門松には、斜めに切り落とされたものと水平に切られた2種類があります。皆さんのお近くにある門松はどちらでしょうか。この違いは何だろうと気になっています。

関連タグ: #陶磁器 #金工 #木漆工

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