2026.02.05
伝検通信(メルマガ)週刊メールマガジン「伝検通信」 第93号
週刊メールマガジン「伝検通信」第93号をお届けします。
今週のトップ記事は、初場所が終わったばかりの大相撲を取り巻くさまざまな手仕事の話題を、ジャパンタイムズの「Sustainable Japan Magazine」(2025年8月29日付)からお届けします。。
「クイズで肩慣らし」は、前回クイズの答え・解説と、「芸能」の問題です。
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目次
・ 相撲を取り巻く、伝統的な手仕事。
・ 「クイズで肩慣らし」 第92回=「芸能」
・ 伝検協会だより
相撲を取り巻く、伝統的な手仕事。
ライター:山下めぐみ

栃木・都賀の荒木時三商店は寛永元年(1624)の創業。息子の荒木由和(右)が公務員を退職後に引き継ぎ、昔ながらの手法で箒を制作する。妻の初代(左)も時間を見つけて手伝いに入る。根気のいる仕事だが、小学校の同級生だったという2人の姿からは、手仕事の尊さが伝わってくる。
PHOTO: MANAMI TAKAHASHI
相撲の起源を辿(たど)ると古事記などの神話にいたるが、国家安泰や五穀豊穣(ほうじょう)を願う神事としての歴史は、現在の大相撲に受け継がれている。本場所ごとに土俵に「相撲の神様」を招く儀式があり、伊勢神宮などでの奉納相撲は重要行事である。一方、エンターテインメントとしての相撲は江戸時代に確立する。相撲は歌舞伎と並ぶ二大娯楽となり、人気力士は熱狂的にもてはやされた。
その系譜で創設された相撲協会は、神事を司どる品格と江戸の粋を兼ね備えるように、力士の服装にも事細かに決め事を定めた。髪を伸ばして髷(まげ)を結うことを始め、普段の生活でも外出には着物の着用が必須だ。番付により細かい規定があり、十両、幕内の関取は大銀杏(おおいちょう)を結い、羽織袴(はかま)や四股名(しこな)を染め抜いた着物、名入りの番傘の使用が許される。その様子は、江戸時代に描かれた「相撲絵」そのままである。
大相撲は部屋制度で運営されており、力士のほか、元力士で指導役の親方、行司、呼出(よびだし)、床山(とこやま)などが、現在45ある部屋に所属し、大家族のように寝食を共にする。行司は土俵上の勝敗判定だけではなく、独特の相撲字で取組や番付を書き、場内アナウンスをするなど、多様な役割がある。装束や軍配は階級によって違いがある。
役割がさらに多岐にわたるのが、呼出だ。土と俵で土俵を作り、場所の開始や終了を告げる太鼓を叩(たた)く。取組の際には力士の四股名を読み上げ、土俵を箒(ほうき)で整え、力士が撒(ま)く塩を補充し、懸賞金の幕を持って土俵も回るなど、忙しい。階級はあるが装束は皆同じで、膝から足首まで細く仕立てられた裁付袴(たっつけばかま)に扇子を差した粋な姿は、土俵上でも映えがいい。
表には出ないが、力士と切り離せないのが髪を整える床山である。髷は力士の象徴であり、引退時に断髪するまで、力士は毎日床山に髪を結い上げてもらう。関取は取組時などに、髷の端をイチョウの葉のように開いた大銀杏に結い直す。大相撲の独特な風習や制度を守り続けるには、こうした人々の存在が不可欠なのである。
力士が身につける品や土俵周辺の道具など、伝統的なものづくりを続ける職人たちも、大相撲を支える縁の下の力持ちだ。髷を結うには特別な櫛や鬢付(びんつ)け油、髪を結ぶ元結が必要となる。力士が締める締込(しめこみ)、それを収める明荷、土俵を整える箒、力士が撒く塩を入れる塩籠など、いずれも天然素材を用い、手間ひまかけて丁寧に作られたものである。
以前は親から子へ、師から弟子へと継承されてきた手仕事だが、安価な輸入品やプラスチック製品に押され、全国的に昔ながらの工芸や手仕事は危機的な状況にある。自分の代で最後という高齢の職人も少なくない。ものづくりに欠かせない良質な天然素材の確保も年々難しくなっているという。国内外から弟子入り希望の問い合わせはあるものの、経済的にも体力的にも受け入れは難しいと皆口を揃(そろ)える。
2025年は相撲協会創設100周年であった。この間、大相撲の伝統が守られ発展してきたのは、体系的な制度が整っていることに加え、海外からも力士を受け入れてきたためだろう。代々引き継がれてきた手仕事は、持続可能な地球のための英知であり、海外でも高い関心を集めている。国籍にこだわらず後継者を育てる制度など、伝統的なものづくりへのより積極的な支援は、待ったなしの課題に映る。
◎櫛
力士の髷を結うのに欠かせない4種類のつげ櫛(くし)は、創業1903年、名古屋の櫛留商店が製造。3代目の森信吾と4代目の森英明が自宅工房で丁寧に作り上げる。1年ほど陰干ししたつげの板を、庭の窯で燻(いぶ)しては乾燥する作業を3~5年繰り返した木目に煙が染み込んだ板を使用する。鉋(かんな)や鋸(のこぎり)で切り出し、櫛の歯を立て、最後はトクサを乾燥したもので1000回ほど磨き「歯の1本ずつに血の通った」櫛は出来上がる。
◎箒
土俵では大きめの竹箒と東京型と言われる座敷箒の2種が使われる。現在、後者は輸入物だそうだが、栃木の都賀(つが)の荒木時三商店では東京型箒の製造を続けている。農家の副業として箒作りが盛んだった地区だが、今はこちらだけ。材料のホウキモロコシを作る農家も高齢化で先行きは暗い。1度煮て乾燥させた材料を水に浸して、1週間かけて編んでできる箒は頑丈で美しい。50年は使えるとなればコスパも最強だ。
◎締込
力士が腰に締めるまわしは、稽古用や幕下以下の力士用は木綿製だが、関取の取組用は絹製の締込である。現在唯一手織りで締込を織る職人は、滋賀県にある「おび弘」山門(やまかど)工場の石井一信で、後継者はいない。1万5000本の経糸(たていと)を2本ずつ立て、5種類の糸をよった緯糸(よこいと)を使い、10メートル前後の締込を織り上げる。頑丈だが肌触りがよく、品がいい光沢は丁寧な手仕事のなせる技。安青錦の締込もここで織られた。
◎鬢付け油
日本で唯一の力士用鬢付け油「オーミすき油」は1965年に島田秋廣が創業した島田商店が製造。2代目島田陽次を中心に家族4人で作業をする。工程はひまし油と菜種油と木蝋(ろう)を合わせて鉄鍋で溶かし、適温まで冷めたら香料を投入して木の棒で練り上げる。台に移して型に入れて切り分け、梱包(こんぽう)まで一気に作業を進める。独特の甘い香りはバニラなどをブレンドしたもので、大相撲に欠かせない魅力の一つだ。
◎塩籠
力士は土俵に上がると力水を受け、塩を掴(つか)んで土俵に撒く。一連の儀式は土俵と力士の心身を清め、安全を祈願するものだ。塩を入れるカゴは塩籠と呼ばれ、現在、茨城県で職人が1人で製作する。真竹を使って編み上げる素朴な見た目だが、底の部分には厚めの竹、縁にはラタンを巻いて補強がしてある頑丈な作りだ。本場所中、1日に使われる塩の量は40~50キロ。塩籠に塩を補給するのは、呼出の仕事になる。
初出:『Sustainable Japan Magazine by The Japan Times』
August 29, 2025
Sustainable Japan Magazineのウェブサイトはこちら
「相撲を取り巻く、伝統的な手仕事。」
「クイズで肩慣らし」 第92回=「芸能」
~伝統文化に関するさまざまな話題をクイズ形式でお届けします~

『三芝居之図』より『中村座内外の図』歌川豊国 国立国会図書館デジタルコレクション
第92回
問題:天下人の豊臣秀吉、出雲阿国の恋人で歌舞伎の祖という伝説がある戦国武将、そして、江戸歌舞伎の祖とされる猿若勘三郎。この3人に共通する出身地は現在のどこでしょう。(答えと解説は次号で)

鬼退治の様子を描いた歌川国芳の浮世絵
【前回クイズの問題と答え・解説】
問題:平安時代の京都で姫を誘拐するなど悪事を重ね、源頼光とその家来の四天王に退治されたとされる、能の「大江山」に登場する大酒飲みの鬼の名前は何でしょう。
答え:酒呑童子
解説:酒呑童子(しゅてんどうじ)は大江山(伊吹山とする写本もあり)をすみかにし、茨木童子などの手下を従えて悪さをしたという鬼の頭領。酒呑童子の伝説はさまざまな作品の題材になり、その首を切ったとされる童子切安綱(どうじぎりやすつな)は天下五剣に数えられ、国宝に指定されています。立春の前日に当たる節分(今年は2月3日)は追儺(ついな)という鬼を追い払う儀式と結び付き、現在のような行事になりました。四つ目の鬼の面を使うこともありますが、これは平安時代に実在したという呪術師の方相氏(ほうそうし)に由来します。鬼が嫌うヒイラギにヤイカガシというあぶったイワシの頭を刺して戸口に飾る地域もあり、近年は恵方巻という風習も広まっています。
伝検協会だより
京都を代表する伝統染織物である西陣織、京友禅、
【編集後記】
先週末、所用で北海道・札幌に滞在しました。積雪が処理能力を超えたことで新千歳空港と札幌を結ぶJR快速エアポートが運休、間引き運転になったり、高速道路も通行止めとなりバスが運休となったりするなど、交通インフラが自然の猛威に翻弄(ほんろう)されていました。パンデミックや気候変動などの災害級の事態に備えることは難しいですが、何もない原野から150年で200万人近くが住む大都市へと変貌した札幌で、先人の苦労と今後の行く末を考えた次第です。
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