2026.02.19
コラム/エッセイ抹茶人気で市場に異変―国は碾茶生産を推進
木下朋美=鹿児島県立短期大学生活科学科助教

オーストリア・ウィーンのカフェで作られるアイス抹茶(筆者撮影)
ここ数年、世界中で巻き起こっている抹茶ブーム。昨年はその勢いがさらに加速し、もはやブームを超えた「バブル」と呼べるほどの熱狂を見せています。
もともと日本の緑茶は、健康志向や日本食ブーム、日本文化への関心から人気がありました。さらにハーゲンダッツやスターバックスが抹茶を定番化したことでブームに拍車がかかりました。スーパーフードとしても注目され、最近は他の飲料にない鮮やかな緑色がSNSで脚光を浴び、世界中の幅広い世代で抹茶が大人気となりました。手軽に楽しめる抹茶ラテや抹茶スイーツから、本格的な抹茶を点(た)てて味わえるお店まであります。
需要が急増する中で、中国産やベトナム産の抹茶も登場していますが、ここで日本における「抹茶」の定義を確認しておきましょう。
日本茶業中央会の定義では、抹茶とは「碾茶(てんちゃ、覆下=おおいした=栽培した茶葉を碾茶炉等で揉=も=まずに乾燥したもの)を茶臼等で微粉末状に製造したもの」です。覆下栽培には自然仕立ての茶園に棚を作り、よしずや藁(わら)、もしくは寒冷紗(かんれいしゃ)で覆う方法、または畝(うね)仕立ての茶園に直接、寒冷紗で覆う方法があります。碾茶炉は煉瓦(れんが)炉で輻(ふく)射熱(放射熱)と熱風を使って乾燥させるタイプが使われてきました。近年は煉瓦炉以外の碾茶炉が多く見られるようになり、その種類は煉瓦炉の性能に近づけたものから、処理能力の高い碾茶炉までニーズに合わせて使い分けられています。碾茶を抹茶に挽(ひ)く方法には、伝統的な石臼だけでなく、ボールミルやジェットミルといった機械が導入され、品質と効率の両立が図られています。
品質の鍵を握るのが「品種」です。宇治品種と言われる「あさひ」や「さみどり」「ごこう」「うじひかり」、2006年に品種登録された「鳳春(ほうしゅん)」「展茗(てんみょう)」はトップクラスの抹茶に利用されています。一方、全国的に煎茶製造に使われている「さえみどり」や「おくみどり」なども碾茶製造に活用されています。また抹茶としても品質の高い「せいめい」が20年に品種登録されましたが、品種登録から30年は海外への持ち出しが制限されているため、日本産抹茶としてのオリジナリティーを守ることができます。国内の碾茶生産量(24年)は1位鹿児島県2150トン、2位京都府1068トン、3位静岡県611トンとなっています。

抹茶の元になる鹿児島県産の碾茶「せいめい」(筆者撮影)
緑茶の輸出量は抹茶ブームを背景に急増しています。25年初めには煎茶から碾茶生産に切り替え、有機栽培により輸出を強化するという農水省の方針が報じられました。日本の茶業が国内向けではなく、海外向けに生産内容を変えるということはこれまでもあったことですが、この件について業界筋から聞かれたのは、対応できるのは鹿児島県という話でした。
その理由として、鹿児島県は碾茶の生産量日本一であること、国内の有機栽培茶園面積の51%を占めることなどが挙げられます。有機栽培への転換と併せて病害に強く有機栽培に向く「せいめい」の栽培面積も、24年度末時点で100ヘクタールを超えています。また碾茶生産には欠かせない被覆作業は大変な労力を必要としますが、もともと煎茶を製造する場合も7日程度の被覆を行っていたので、被覆期間を長くするだけで済みます。さらに昨年秋、乗用型摘採機のパイオニアである同県の松元機工から碾茶用の乗用型摘採機が登場しました。摘採の刃を2段備え、茶摘みを従来の2回から1回で済ますことができる機械で、生産性が向上しました。

松元機工の碾茶用乗用型摘採機(筆者撮影)
しかし、抹茶バブルは市場に異変ももたらしました。 25年度の新茶シーズン以降、碾茶への転換が進んだことで煎茶が供給不足となり、例年以上の高値がつきました。驚くべきは、通常なら時期が遅くなるほど下がるはずの取引価格が逆転し、「秋冬番茶が一番茶を超える」という、過去に例を見ない事態まで起きたのです。生産者にとっては追い風ですが、仕入れ価格の高騰に耐え切れず廃業する茶問屋が現れるほどでした。私たち消費者にとっても、ペットボトル飲料を含めたお茶全般の値上がりという形で生活に直結し始めています。
農水省が25年4月に発表した煎茶から碾茶への転換の内容は、「茶業及びお茶の文化の振興に関する基本方針について」としてまとめられました。この中では日本茶の魅力・情報発信による消費拡大やお茶の文化振興についても言及されています。日本茶の魅力は伝検公式テキストに書かなかったものがまだまだたくさんあります。ぜひ日本の茶農家の方々が作るお茶を味わい、楽しんでいただき、日本茶文化の伝統を伝えていきましょう。
カテゴリー: コラム/エッセイ
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