2026.03.05
コラム/エッセイ「工芸文化の諸相」 第2回 人形という工芸領域―「顔」の表現、日本ならではの芸術性
外舘和子=多摩美術大学教授、日本伝統文化検定協会副会長
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人形作家・中村弘峰作「PUNK FLOW GIRL~苔のむすまで~」=「Kogei meets…出会いから生まれるかたち」展(1月10~23日)より(筆者撮影)
3月3日はひな祭り。日本では、女の子がいる家では、ひな人形を飾ることが多いだろう。5月の端午の節句には、男の子の健やかな成長を願う五月人形もある。
人形を、吉祥や祈りを込めて扱う習慣は、日本では長い歴史がある。人形を「ヒトガタ」と読めば、そのルーツは縄文時代の土偶あたりにまでさかのぼることができる。いにしえの土偶やはにわから、江戸時代に発達した御所人形や博多人形などに至るまで、日本の人形文化には歴史があり、表現の幅もある。一方、欧米にも「人形(ドール)」は存在するが、ドールに日本人ほどの思い入れはなく、どちらかといえば子供の玩具、ないしはちょっときれいな飾り物と見なされることが多い。しかるに、現代の日本の工芸展で「人形」という表現部門があることに外国人は驚くのである。
例えば、日本工芸会所属の作家たちが出品する日本伝統工芸展の全7部門には、陶芸・染織・漆芸・金工・木竹工・諸工芸(ガラスや七宝など)と並び「人形」部門があり、平田郷陽(ごうよう、1903~1981)のような人形の重要無形文化財保持者(人間国宝)もいる。また、日展の理事長を務めた日本芸術院会員に、工芸部門の人形作家・奥田小由女(さゆめ、1936~)がいる。今日の若手作家なら、博多人形の家に生まれた中村弘峰(1986~)が挙げられよう。
さらに興味深いことに、工芸はおおむね素材ごとに領域をくくるが、人形はやきものや木彫り、紙貼りなどさまざまな素材が含まれる。人形という工芸領域をくくる基準は、人や子供、動物など、その具象性であり、「顔」があることと言ってもよい。
その具象性ゆえに、日本人は人形作品に物語を読み取り、感情移入し、その人形の世界に浸る。人をモチーフにしたとしても、西洋由来の人体「彫刻」が、表面にこだわってはならないという教育や指導を行うのに対し、人形は実際の着物などのきれを用いた衣装を丁寧に着せたり、彩色したり、目鼻や口を繊細に描き、むしろ表面の作り込みを重視する。西洋的な彫刻と日本の工芸表現としての人形の表現姿勢は真逆に近いのである。
「人形は顔が命」とは、ひな人形のCMでも言われたりするが、私たち人間と同様「顔」を持つ人形に、日本人は深い精神性や芸術性を見いだしてきた。ひな人形や五月人形を宝物のように大切に代々受け継いでいく文化の中にも、人形に対する日本人ならではの深い愛着がある。そうした日本の歴史が、人形作家を生み、人形を今日の工芸領域の一つとして定着させてきたのである。
カテゴリー: コラム/エッセイ
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