伝統文化を知る

2024.04.11

伝検通信(メルマガ)

週刊メールマガジン「伝検通信」 第3号

週刊メールマガジン「伝検通信」第3号をお届けします。
前号に引き続き、日本伝統文化検定協会理事による「宙ちゃんの『伝統文化一直線』」連載をお送りします。
「クイズで肩慣らし」は前回クイズの解答・解説と、金工・木漆工分野からの出題です。
7月末までにメルマガ登録した方の中から、抽選で100人に公式テキスト(今夏刊行予定)をプレゼントするキャンペーンも引き続き実施中です。それでは第3号スタートです。


目次

・ 宙ちゃんの「伝統文化一直線」第2回 日本の伝統工芸が直面した2度の危機
・ 「クイズで肩慣らし」第3回(金工・木漆工)=「香川漆器」
・ 伝検協会だより


宙ちゃんの「伝統文化一直線」 第2回 日本の伝統工芸が直面した2度の危機

近藤宙時=日本伝統文化検定協会理事

写真/「日本刀(無銘:御勝山永貞)」=時事通信フォト


日本の「匠(たくみ)の文化」「匠の技術」を生み出した伝統工芸が、この150年余りの間に2度も消滅の危機に瀕したことをご存じでしょうか。

最初の危機は明治維新でした。伝統工芸の最大のパトロンにして、刀剣武具などの唯一の購買層でもあった武士という支配階級が消滅した時です。当時の匠たちは、例えば刀鍛冶が包丁職人になり、刀の鍔(つば)や鎧兜(よろいかぶと)の金属装飾品を作っていた金工師たちは、例えば紳士用の名刺入れにその技を生かすなど、生活用具を生み出すことによって伝統工芸の核心的な技術と価値を生き残らせました。

2度目の危機は、はるかに深刻なものです。それは、現在も続いている生活の洋式化です。しかも1960年代以降の高度経済成長に伴う工業化の進展と大都市圏への人口移動は、大家族が主体だった生活形態の基礎までも変えてしまいました。核家族化です。

洋式化だけなら、明治維新という危機を乗り越えたように、匠の技を生かす新たな製品を生み出せば乗り切れたかもしれません。しかし、夫婦とその子供だけの核家族化によって、「匠の技」が生み出す伝統工芸品の価値そのものが奪われてしまいました。家族がバラバラになる時代にあっては、先祖伝来の伝統工芸品を受け継ぐ者もおらず、鑑賞や体験、使用の機会が激減してしまったのです。

プラスチックの安価な大量生産品に囲まれて育った大人たちに「匠の文化」の素晴らしさを知ってもらい、子や孫に伝えていってもらうには、地球環境の危機が叫ばれる今をおいて他にはありません。

前回述べたように、自然を敬い、自然から生み出される日本の伝統工芸は、製造工程においても、使用段階においても、さらには廃棄の段階においても自然を友とし、自然を破壊することはありません。その完璧とも言えるサスティナビリティー(持続可能性)の高さは、日本のみならず、世界中の人々に愛される源になるでしょう。これから始まる「伝検」こそ、日本の「匠の文化」を多くの人々に伝える一助になるものと信じています。

*次回のテーマは「経年劣化と経年美化」です。


「クイズで肩慣らし」第3回(金工・木漆工)

~伝検公式テキスト(9月刊行予定)のジャンルごとに出題します~

香川県の伝統的工芸品「香川漆器」で、何度も漆を塗り重ねた上に文様を線彫りし、そのくぼみに色漆を埋め込む独特な技法は何と呼ばれるでしょうか?

【前回の解答と解説】

問題:岐阜を代表する伝統的工芸品のひとつ「岐阜提灯(ちょうちん)」との出会いにより誕生した世界的に有名な和紙照明「AKARI」をデザインしたのは誰でしょう。

答え:イサム・ノグチ

解説:米彫刻家イサム・ノグチが岐阜提灯に関心を持ったのは、長良川の鵜飼見物のために岐阜県に立ち寄った1951年。尾関次七商店(現オゼキ)の提灯工場を訪れた次の日には、二つの提灯をデザインしました。簡素なものの中に無限の世界を表現しようとするイサム・ノグチの哲学と日本的な美意識が結実した和紙照明「AKARI」。現在、多くの美術館、ギャラリーに展示され、その芸術性は世界中で高く評価されています。


伝検協会だより

伝検協会の境理事長が先週、中国の「人民日報海外版日本月刊」のインタビューを受けました。場所は東京・赤坂の東京ミッドタウンにある工芸品ショップ「THE COVER NIPPON(ジカバー・ニッポン)」。協会の正会員でもあるメイド・イン・ジャパン・プロジェクト株式会社の直営店です。蒋編集長によると、長い歴史を持つ日本の伝統文化は中国の人々にとってもあこがれの的なのだとか。「匠(たくみ)の技が魅力を保ち続けているのはなぜなんでしょうか?」「伝検は受験者にとってどんな価値があるんですか?」「協会が直面している最大の挑戦は?」などなど、本質を突いた鋭い質問に理事長もたじたじの様子でした。インタビュー記事は5月下旬発行の6月号に掲載される予定です。


【編集後記】

伝検通信第3号いかがでしたでしょうか。「宙ちゃん」連載原稿を読みながら、着物の効用を思い出しました。帯でぐいっと腰を締めると姿勢が良くなり気持ちもしゃんとして、心なしか腰痛も治るような…。早速この週末、久しぶりに帯を締めてみます(坂本)。


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