「和」を知る・「和」を楽しむ・「和」を伝える日本のスペシャリストになろう!

写真上/取材に応じる菓子木型職人の市原吉博さん=高松市
写真下/和菓子作りに使用される菓子木型(香川県提供)

和菓子作りに欠かせない「菓子木型」。全国でわずか数人しかいない職人の一人で
ある高松市の市原吉博さんは、現状に危機感を抱きつつ、「幸せを運ぶ木型を作り続ける」と、和菓子文化を未来につなぐために彫刻刀を握り続けている。

◇「手間を惜しむな、名をこそ惜しめ」

和菓子の成型に使用される菓子木型は、菓子のデザインと左右や凹凸が逆になるように彫られている。繊細な意匠が表現された美しさから観賞用としての人気も高まっており、菓子業界以外からも注目を集めているという。

その歴史は江戸時代に始まったといわれ、当時から和三盆糖(わさんぼんとう)と呼ばれる砂糖の生産が盛んだった香川県では、和菓子文化が花開き、多くの木型職人が腕を競った。

ただ、後継者不足などを背景に職人は減少の一途をたどり、四国では現在、市原さんのみとなった。24歳から菓子木型販売の仕事に携わり、28歳の時に職人へ。卓越した技能を持ち、その道の第一人者とされている「現代の名工」で、伝統工芸士にも認定されている市原さんには、国内外のファンから次々と依頼が舞い込んでいる。

「頼まれた仕事はできるだけやりたい」と語る市原さんは、工房の方針として「手間を惜しむな、名をこそ惜しめ」を掲げている。見た目にも美しく、人を楽しませる和菓子を作り出すためにも、「木型には、一切妥協しない」と言い切る。

◇菓子木型で笑顔に

市原さんはまた、菓子木型の材料にもこだわる。使用するのは四国の山で育った樹齢100年以上の山桜のみ。きめが細やかで堅く、割れにくいため、美しく彫れるという。「(木型には)いい菓子職人さんに巡り合い、幸せになってほしい」と、わが子のように愛情を込める。

「工房を訪れた人の笑顔を見るのが一番の喜び」と市原さん。菓子木型を多くの人に手に取ってもらうことで、「和菓子業界が少しでも元気になってくれればうれしい」と語る。

明るく気さくでユーモアにあふれる人柄だけに、多くの人が立ち寄る工房には笑顔が絶えない。千葉市から見学に訪れた高校の家庭科教員の女性は、購入した木型を手にしながら、「和菓子に興味があり、どうしても市原さんに会いたかった。子どもたちに見せるのが楽しみだ」とほほ笑んだ。

伝統工芸士 市原 吉博さんの木型工房サイト
https://www.kashikigata.com/