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週刊メールマガジン「伝検通信」第27号をお届けします。

今号のトップ記事は、戦時下の物資不足や価格統制から和菓子の伝統を守り抜いた京都に関する話題です。

「クイズで肩慣らし」は前回クイズの答え・解説と、金工・木漆工分野からの出題です。

11月から実施する2級および3級の第1回伝検の受験申し込みを受け付けています。公式テキスト、2級受験者向けオンライン講座の販売もスタートしています。ぜひお申し込みください。

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目次

・ 宙ちゃんの「伝統文化一直線」 第13回 和生菓子特殊銘柄品
・ 「クイズで肩慣らし」第27回(金工・木漆工)=「大工道具」
・ 伝検協会だより


宙ちゃんの「伝統文化一直線」 第13回 和生菓子特殊銘柄品

近藤宙時=日本伝統文化検定協会理事

写真左 三條若狭屋の祇園ちご餅(公式ホームページから)
写真右 鶴屋吉信の柚餅(ゆうもち:提供写真)

京都の人は「いけずだ(意地が悪い)」、「よそ者に冷たい」などと言われるのをよく耳にします。しかし、よそ者に対する京都人の冷たさは、類いまれな歴史を持つ町の文化・風土を次代に伝えなくてはならないという、半ば使命感のような意識のなせる業かもしれないと、「和生菓子特殊銘柄品」という言葉を知った時に思い始めました。

話は80年以上前にさかのぼります。太平洋戦争が始まる直前の1941年(昭和16年)9月1日、「金属類回収令」という勅令が施行されました。国家総動員法の下、戦争遂行に必要な物資の不足を補うため、商家や家庭の鍋釜からお寺の鐘、国宝級の銅像に至るまで、ありとあらゆる金属類が「兵器に転用するから」と供出させられ、鋳つぶされました。

そんな狂気の時代にあって、お菓子は不用品・不急品の代表格だったでしょう。何せ、口にすれば無くなってしまう「消え物」の最たるものですし、ご飯と違い、生きていくのに必要かと問われれば、とても「はい」とは言えないしろものです。

金属類回収令の2年前には「価格等統制令」が施行され、和菓子を含む菓子類も農林省(現農林水産省)によって公定価格が定められていました。安い公定価格ではまともな材料が使えず、多くの和菓子屋が休業せざるを得なくなったという当時の事情は、朝ドラなどでも描かれたことがあるので、ご存じの方も多いでしょう。

しかも農林省は42年(昭和17年)8月13日付の告示で、菓子類に対してさらなる価格統制を発動しました。職人の美意識に育まれてきた和生菓子まで全国統一の規格が決められ、それに該当しない場合は第4項の「其ノ他ノ菓子」として一段と低い上限価格が設定されました。当然ながら、ますます多くの和菓子屋が窮地に追い込まれたのは想像に難くありません。

価格統制はいつまで続くか分からない。だとしたら、京都の誇る和菓子の製造技術が失われてしまうかもしれない―。失われた技術をよみがえらせることの難しさを京都の人たちは知っていたのでしょう。そんな危機感から、ある行動に打って出ます。

実は、この農林省告示には、第13項に「地方長官ニ於テ農林大臣ノ承認ヲ受ケ生産者ヲ指定シ特別ノ規格ヲ定メ製造シタルモノニ付別段ノ額ヲ指定シタルトキハ四(第4項)ノ価格ハ之ヲ適用セズ」という例外規定がありました。京都府はこれを根拠に、地元の和生菓子の中から、三條若狭屋の祇園ちご餅や鶴屋吉信の柚餅(ゆうもち)など、技術的にも特に価値が高く、後世に残すべき18種の銘菓を知事名で指定し、価格統制の枠外に置いたのです。それが和生菓子特殊銘柄品でした。

「戦時京菓子18種」とも呼ばれる銘菓の多くは、今でも当時指定された和菓子屋さんで求めることができます。京都の人たちが守ってきたこれらの和生菓子を味わうためだけでも、京都には訪れる価値があると思っています。


「クイズで肩慣らし」第27回(金工・木漆工)=「大工道具」

~伝検公式テキスト(好評発売中)の分野ごとに出題します~

江戸時代から使われ続けている大工道具。国の伝統的工芸品にも指定されています。

問題:安土桃山時代に落城した三木城があった兵庫県三木市は、当時、壊滅した町の神社仏閣や家屋の再建をきっかけに、大工道具を含む刃物の産地として発展しました。その刃物の名称は何でしょうか。 (答えと解説は次号で)


国の文化財保存技術である「選定保存技術」 で作られた沖縄の伝統染織

【前回の答えと解説】
問題:「藍染」は藍の葉を乾燥・発酵させた「すくも」 を染料として使いますが、沖縄の伝統染織に欠かせない「琉球藍」 では、別の方法で加工した染料が使用されます。 この染料を何というでしょうか。

答え:泥藍(どろあい)

解説:沖縄の伝統染織に欠かせない琉球藍。芭蕉布・紅型(びんがた)・宮古上布・琉球絣(かすり)など、ほとんどの沖縄の伝統染織に使用されています。藍を発酵させ、石灰を加えて藍の成分を沈殿させたものを染料として用い、これを「泥藍」と言います。琉球藍の製造は、国の文化財保存技術である「選定保存技術」に選定されています。現在、この藍の生産は限られた地域でのみ行われており、沖縄の伝統染織にとって残すべき貴重な技術となっています。


伝検協会だより

▼2024年10月2日発売の「伝検公式テキスト」(初版第1刷)におきまして、記載に誤りがありました。購読者の皆さま、ならびに関係各位にご迷惑をお掛けしたことをお詫び申し上げますとともに、訂正させていただきます。訂正箇所は伝検公式サイトの「お知らせ」(https://denken-test.jp/info/1303/でご確認ください。今後、新たに誤りが判明した場合は随時、「お知らせ」に掲載します。

▼同じく「伝検公式テキスト」(初版第1刷)5ページに掲載した検定情報の出題数表につきまして、項目(ジャンル)区分で記載した出題数を分野(カテゴリー)区分に変更させていただきます。この結果、分野別の出題数は変わりませんが、項目別では出題数が変動します。出題数表の変更版は伝検公式サイトの「お知らせ」(https://denken-test.jp/info/1304でご確認ください。

▼「伝統と未来を考える~いま、求められる革新とは~」と題して、読売新聞社などが9月30日に、能登半島地震で被害を受けた輪島塗の関係者らを招いて開いた工芸シンポジウムに参加してきました。輪島市の田谷漆器店の田谷昴大プロデューサーは、トークセッションの中で、「今は危機的状況にある輪島を世界の漆芸のメッカにしていきたい」と力を込めました。その上で、「輪島の漆器を消費者の皆さんにもっと知ってもらうためには、外部(の民間企業など)との連携が大事だ」と語り、新しい商品の開発や、販路の開拓に取り組む考えを強調しました。


【編集後記】
伝検通信第27号をお届けしました。今回、画像を快く使わせてくださった鶴屋吉信の方から、戦時中の和菓子づくりの苦労について伺いました。「当時の店主によると、和菓子用の砂糖が枯渇したため沖縄まで船で黒糖を買い付けに…といった文章が残っており、当時の苦労がしのばれます」とのこと。先人の使命感と知恵のおかげで今でも銘品を味わえることに感謝です。