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「つなぐ力」で伝統工芸支援 革新・変革考えるきっかけに
【MUFG工芸プロジェクト】三菱UFJ銀行名古屋ビルで開かれた「有松・鳴海絞(ありまつ・なるみしぼり)」体験会=2024年2月(MUFG提供)
金融機関が持つ「つなぐ力」を生かしたい―。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は2023年夏に、陶磁器、漆器、織物といった伝統的な工芸産業を支援する「MUFG工芸プロジェクト」をスタートさせた。後継者不足などの理由から危機的な状況に置かれている伝統工芸の現状を踏まえ、プロジェクトのリーダーである飾森亜樹子(しきもり・あきこ)チーフ・コーポレートブランディング・オフィサーは「工芸に携わるすべてのステークホルダーをつなげるプラットフォームづくりを進めることが、伝統工芸を支援することになる」と強調。「今年度はグループ従業員12万人を巻き込む仕組みをつくるとともに、具体的な支援活動も強化し、プロジェクトを飛躍させたい」と力を込める。
◇なぜ金融機関が工芸支援
伝統的工芸品産業振興協会によると、2016年時点の伝統的工芸品の従業員数(約6万2700人)と生産額(約960億円)は、それぞれ1980年ごろと比べて8割程度減少。こうした現状を踏まえ、MUFG工芸プロジェクトは、社会貢献活動の一環として、融資など本業の金融だけではできない活動を進める狙いで企画された。
MUFGはパーパス(企業の存在意義)として「世界が進むチカラになる。」を掲げ、社会貢献活動の優先領域の一つとして「文化の保全と伝承」を打ち出している。工芸を選んだ理由に関して、飾森氏は「工芸は伝統を紡いできただけでなく、時代に応じて挑戦・革新を繰り返してきた。現代の企業にも求められるもので、企業人としてどうやって変革していくのか考えるきっかけや、学び、気付きになる」と指摘。その上で「未来に向け変わっていく姿を見せることが、MUFGの企業価値を高めることにもなる」と狙いを語る。
金融機関と伝統文化の関係は決して薄くなく、伝統的に地域で受け継がれている工芸などをめぐっては、さまざまな取り組みが行われている。山口銀行は萩焼などを展示する「やまぎん資料館」を運営。琉球銀行は沖縄を代表する伝統的な染色技法の一つである「紅型(びんがた)」のデザインコンテストを開催している。日本を代表する金融機関であるMUFGが本格的な伝統工芸産業の支援に乗り出したことで、今後、こうした動きが加速する可能性もありそうだ。
インタビューに応じる三菱UFJフィナンシャル・グループの飾森亜樹子氏=3月、東京都千代田区
◇情報発信強化、次世代支援も
MUFGはプロジェクトの第1弾として、昨夏に全国各地の職人の伝統工芸品を紹介する展示会を三菱UFJ銀行本館(東京)ロビーで開催。今年2月には、三菱UFJ銀行名古屋ビルで、子どもから大人まで参加できる伝統的な染色技術の「有松・鳴海絞(ありまつ・なるみしぼり)」の体験会を実施した。
今後は、政府・地方自治体や関連団体、民間企業などによる伝統工芸振興への取り組みを有機的につなげる仕組みづくりを目指す考え。飾森氏は「工芸の技術の研さんや革新を起こさせるような新しいアイデアの源泉となれば」と期待を込める。今年度は、次世代の作り手支援にも力を入れ、工芸を学ぶ学生への支援・表彰制度の創設、セミナー・講座の開設などを検討。同時に、消費者側の意識改革や啓発、各地各団体のさまざまな活動をつなぎ「見える化」する情報発信にも注力する方針だ。