「和」を知る・「和」を楽しむ・「和」を伝える日本のスペシャリストになろう!
週刊メールマガジン「伝検通信」第84号をお届けします。
今週のトップ記事は白洲信哉さんの「多様なるジャパン」第13回。中世の焼きものを代表する古信楽の魅力についてお伝えします。
「クイズで肩慣らし」は、前回クイズの答え・解説と、「染織」の問題です。
第3回伝検(2級、3級)は11月1日(土)に始まり、
伝検公式教材・参考書・サイト https://denken-test.jp/
目次
・ 「多様なるジャパン」 第13回 古信楽
・ 「クイズで肩慣らし」 第83回=「染織」
・ 伝検協会だより
「多様なるジャパン」 第13回 古信楽
白洲信哉=文筆家、日本伝統文化検定協会副会長

古信楽大壺(個人蔵)室町時代
連載1回目で世界の最も古い縄文土器について述べたが、わが国は昨今怪しくなってきた経済大国以上に原始から「焼きもの大国」なのである。2017年に認定された日本遺産に「六古窯」(瀬戸、常滑、越前、丹波、備前、信楽)と呼ばれる中世以来の代表的な窯から、古くは須恵器に猿投(さなげ)、桃山に入ると流行した楽に唐津や美濃など、狭い国土の中に長い歴史を持つ焼きもの産地が現在進行形である。
琵琶湖の南に位置する信楽は、平城京を開いた聖武天皇が一時都を構想し、鎌倉時代末に焼きもの先進地域である常滑焼の影響を受け、窯業産地として発展する。「古信楽」とあえて「古」と付けたのは、現代信楽焼の代名詞となっているあの狸(たぬき)の置物と区別したいからだ。古信楽は、茶の湯の「枯れ、冷え」等の世界観と合致し、日常雑器、例えば小さな貯蔵用の種壷(つぼ)に孔(あな)をあけ掛花入れに転用したいわゆる「蹲(うずくまる)」は、小さな茶室のサイズにあったことから茶人に見立てられた。
中世古窯は土地の特性を生かし、水や酒なら「備前」とか、信楽は水が漏るけれど通気性があるから種壺にいいなど、生活に欠かせない日常品を保存するため用途に応じて選ばれた。しかも用のみならず自然釉(ゆう)から次第に意図的に釉薬を研究し、創作的な「美」へと進歩を遂げる。用の美は500年以上貯蔵や運搬用に使われることで長期熟成し、どれも内側からじわーといまだに艶艶(つやつや)としたものが多い。僕がとくに惹(ひ)かれるのは、茶室のサイズにあわなかったこともあり、茶人には拾われなかった古信楽の大壺や大甕(おおがめ)だ。
高温に耐えた大壺や甕(かめ)には多彩な表情があり、灰や釉薬が溶けて緑や茶色の自然釉になって流れたものなど千変万化、二つとして同じモノはない。その魅力が世に知られることになったのは、写真家土門拳が1965年「信楽大壺」を発表、かの映画監督黒澤明は「いわば中世の、空の、山野の、移ろう色を見るようである」と寄稿し、壷から映画のワンシーンをイメージしたのである。
紫香楽宮(しがらきのみや)跡の森の中に300を超える礎石がある。廃虚の景色は、都の造営を断念した聖武天皇の無念さや、古信楽の景色に「侘(わ)び」をみた茶人の思いと重なってくる。大和の原風景を写した写真家、入江泰吉が「日本の壺は風景とまったく同じです。(中略)焼きものを形容するのに、『景色』ということをいいますね。あれは実にいい言葉だ」と述べた。焼きものの表情と自然風景を重ね「景色」と呼ぶユニークな民族は、一つの壺でもぐるり回してみればわが国の多様なる原風景を感じられるのである。
「クイズで肩慣らし」 第83回=「染織」
~伝統文化に関するさまざまな話題をクイズ形式でお届けします~

甲州印伝の巾着 (写真提供 印傳屋上原勇七)
第83回
問題:甲州印伝は山梨県の伝統的工芸品ですが、この「印伝」に関する記述が出てくる江戸時代の滑稽本は何でしょう。(答えと解説は次号で)

【前回クイズの問題と答え・解説】
問題:民俗学者の柳田国男による説話集「遠野物語」に登場する、山中に急に現れて、そこにある器などを持ち帰るとその人に富をもたらすとされる不思議な家のことを何というでしょう。
答え:マヨイガ(迷い家)
解説:「遠野物語」は現在の岩手県遠野市の言い伝えをまとめたものです。マヨイガは物を持ち帰ると幸福をもたらすという不思議な家のことで、「遠野物語」の「六三」「六四」の話で紹介されて有名になりました。「六三」は、貧しい家の妻が山へフキを採りに行くと立派な屋敷を見つけたが、何も取らずに帰ると、川上から赤いお椀(わん)が流れてきて、それを使ったところ家が栄えたという話です。浄法寺塗や秀衡塗が有名で、漆の生産量がトップの岩手県では、昔から漆器が特別な存在だったこともうかがえます。
伝検協会だより
伝検協会として初めてのイベント「数寄を見つけよう」を11月24日、着物雑誌「七緒」(プレジデント社)との共催で開きました。会場となった東京・銀座の時事通信ホールにはたくさんの方にご来場いただき、ありがとうございました。トークショーではモデルの高山都さんと「七緒みらい研究所」所長の鈴木康子さんが器や日本食、着物などをテーマに語り合いました。会場入り口には池坊華道にご提供いただいた大きな生け花が飾られ、記念撮影をされる方も。このほか、草木染の体験や各種工芸品の鑑賞、高級日本酒の試飲、日本茶の飲み比べなどを楽しんでいただきました。
今回のイベントへの出展・協力は以下の通りでした(順不同)。
池坊華道、高級日本酒 TAKANOME(鷹ノ目)、銀座もとじ(着物専門店)、銀座ぜん屋(和そう履物専門店)、安藤七宝店(七宝)、香蘭社(有田焼)、京はし満津金(江戸小物)、きものやまと(着物)、煎茶堂東京銀座店、木挽町よしや、松崎煎餅。
【編集後記】
早いもので来週は12月。伝検協会がある東銀座もクリスマス向けの飾り付けが増えてきて、一気に年末モードです。ポインセチアの鉢植えや、もみの木を模したクリスマスツリーを見ると、一年は何と早いものかと思います。寒さも増して、インフルエンザ等も猛威をふるっております。どうか皆さま、ご自愛ください。