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2024.11.07

伝検ニュース

「あごだし」の原料確保がピンチ? 沖縄、隠岐、伊豆諸島…離島の伝統漁法が消滅の危機

時事通信水産部長 川本大吾

「アギヤー漁」で取れたグルクンの稚魚。カツオ一本釣り漁に使う餌となる
(沖縄県宮古島市の観光業者提供)【時事通信社】

過疎化が進む日本各地の離島で、後継者不足から伝統的な漁法が消滅の危機に直面している。地域特産の自慢の魚を確保する貴重な生産手段だけに、地元自治体や漁業関係者は、担い手確保へPRを行いながら、伝統漁法を将来に継承しようと必死だ。

◇カツオ漁の餌を取るアギヤー漁師が不足

沖縄県の伊良部島(宮古島市)では、6~7人で海中に潜りながらグルクン(タカサゴ)を狙う「アギヤー漁」の存続が厳しくなっている。グルクンの成魚は、刺し身や唐揚げにして食べられているが、3~5センチの稚魚は、島の基幹漁業であるカツオ一本釣りに使う餌になる。

沖縄県のカツオ一本釣り漁船は計5隻。このうち4隻が伊良部島の漁船で、100年の歴史があるという。6~8月が伊良部島東部の佐良浜漁港から出港するカツオ一本釣り漁の最盛期に当たり、豊漁への期待が高まっている。

ところが近年、伊良部島の漁業者は「カツオ漁に欠かせないグルクン稚魚の確保が、ままならない状況」と嘆く。「アギヤー漁を行う漁師の高齢化などにより、人数が確保できず、漁に出られないことが少なくない」(伊良部島漁業協同組合)ためだ。

餌が足りないとき、同島内で調達できる冷凍のキビナゴを使うこともあるが、地元漁業者は「グルクンに比べ、カツオの食い付きが随分と落ちる」と説明する。アギヤー漁ができずに餌が少なく、「カツオ漁も断念せざるを得ないことがある」(同)という。

島では若者の都市への流出が多く、人口減少に歯止めが掛からず、高齢化は顕著だ。地元漁業者は「アギヤー漁だけでなく、カツオ一本釣りも衰退してしまう」と危機感を募らせており、インターネット交流サイト(SNS)なども使って「海に潜れる人はぜひアギヤー漁に加わって」と、島外にも漁への仲間入りを呼び掛けている。

◇あごだしの原料「トビウオが手に入らない」

島根県の隠岐諸島沿岸でも、伝統漁法に黄信号がともっている。この地域では昔から、すっきりとした味わいで人気の「あごだし」を作ってきた。その原料となるトビウオを取る刺し網や引き網漁は、漁業者の高齢化や漁獲量の減少などで出漁が減っており、トビウオの確保が難しくなっているという。

地元ではトビウオをあごだしのほか、干物や薫製、ミンチなどさまざまな加工品にして消費している。こうした伝統の味も作れなくなるのではと嘆く加工業者が少なくない。

隠岐の水産業を守ろうと、島根県は漁業者確保に向けた研修や、漁業者としての独立を目指す支援金制度を設けている。しかし、最盛期は6月を中心に1カ月ほどと短いトビウオ漁だけでは生計を立てられないのが難点だ。

どうにか、刺し網や引き網漁を存続させようと、アワビやサザエの潜り漁のほか、メバルやイサキを対象とした刺し網漁など「他の漁法を組み合わせた複合型漁業で、隠岐の漁師になってほしい」(同県)と訴えている。

◇建切網漁なども消滅の危機-伊豆諸島

伊豆諸島でも、古くから行われてきた漁法が危機にひんしている。神津島や新島の沿岸で行われてきた「建切網漁」は、海底から水面まで帯状の大きな網で囲んで高級魚のタカベなどを取っていた。

泳ぐ魚を陸へと寄せながら、次第に網を狭めてすくい取る珍しい漁法で、かつて氷が手に入りにくかった時代には、魚体に傷みが少ない新鮮な魚が江戸まで運ばれ、重宝されていたようだ。ところが近年、建切網漁は、低調な水揚げや漁業者の高齢化などから、都の水産課は「ほとんど行われなくなってしまった」と説明する。

伊豆諸島ではこのほか、八丈島で「くさや」の原料となるムロアジなどを取る棒受け網や、トビウオなどを取る刺し網漁なども、漁業者の減少などで存続が危ぶまれている。

東京都の水産課は、こうした伝統漁法について「いったん行われなくなれば、漁具はもちろん、漁のさまざまな技法についても、受け継がれず途絶えてしまう」と危機感を募らせる。漁業は島にとって重要な産業でもあるため、「伝統漁法をどうにか後世に残せないか、都として支援策を急いで検討していく」としている。

▼時事ドットコムニュース(2022年5月24日掲載) 連載 「大漁! 水産部長の魚トピックス」 より


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