伝統文化を知る

2024.11.28

伝検通信(メルマガ)

週刊メールマガジン「伝検通信」 第35号

週刊メールマガジン「伝検通信」第35号をお届けします。

今週のトップ記事は、久々の「宙ちゃんの伝統文化一直線」。伝統文化が歴史や洋の東西を超えてつながっているという話題です。

「クイズで肩慣らし」は、前回クイズの答え・解説と、芸能・落語の問題です。今号より1月末までの第1回検定期間中は同試験の出題対象から外し、伝統文化に関するさまざまな問題をお届けします。

明日から実施する2級および3級の第1回伝検の受験は下記サイトからお申込みください。公式テキスト、2級受験者向けオンライン講座の販売もしています。

伝検申込サイト https://denken-test.jp/examination/


目次

・ 宙ちゃんの「伝統文化一直線」 第14回 世界で初めて描かれた霧と雨
・ 「クイズで肩慣らし」第34回=「落語」
・ 伝検協会だより


宙ちゃんの「伝統文化一直線」 第14回 世界で初めて描かれた霧と雨

近藤宙時=日本伝統文化検定協会理事

歌川広重「東海道五拾三次之内・大磯 虎ヶ雨」

伝統文化と聞くと、「古臭いもの」「昔のこと」と思う方も多いかも知れません。しかし、「古い」と簡単に切り捨てることが難しいのが伝統文化です。なぜなら、知らず知らずのうちに、その文化の中で育った人の考え方から物の見方にまで影響を及ぼすものだからです。極端なケースになると、何と遺伝子にまで影響を及ぼしてしまうほどです。

例えば、生海苔(のり)を消化できるのは日本人だけといわれています(焼き海苔は日本人以外も消化できるそうなのでお間違えなく)。大昔から生海苔を食べてきた伝統的な食文化が、知らず知らずのうちに遺伝子レベルにまで影響を及ぼしてしまう。この「知らず知らずのうちに」というのが伝統文化のすごいところです。

伝統文化を知っていれば、異なる文化で育った人の、自分とは違う物の見方を「そういう見方もあるのか」と受け入れることができます。ところが、伝統文化を知らないと、かえって自分の物の見方が人類不変の法則のように思えて、異なる文化を受け入れ難くなってしまいがちです。だからこそ、伝統文化はきちんと知っておく必要があるのです。

話は変わりますが、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーという画家をご存じでしょうか。わずか26歳で英国ロイヤルアカデミーの正会員となった、ロマン主義を代表する風景画家です。初めて霧を描いたことでも知られ、「ターナーが現れるまで、ロンドンに霧はなかった」とさえいわれています。この言葉は象徴的で、伝統文化の一つである絵画が人々の物の見方を変えてしまう力を持っていることを示しています。ターナーが描くまで、ロンドン市民にとって霧は霧でしかありませんでした。

翻って日本においては、ターナーの200年以上も前に、長谷川等伯が「松林図屏風(びょうぶ)」で霧を描き切っています。さすがは四季の国、天気に敏感な農耕の民に受け継がれてきた遺伝子の成せる業としか言いようがない作品です。この絵は、どこか恐ろしささえ漂わせる霧の寂寥(せきりょう)たる雰囲気と同時に、その美しさをも人々に感じさせました。

長谷川等伯が霧を描いてから約170年後、ターナーが生まれる前に、多色刷り木版画である錦絵の元祖と呼ばれ、浮世絵と聞くと誰もが思い浮かべる鈴木春信が、「風俗四季歌仙 五月雨」や「雨夜の宮詣(見立蟻通図)」で、雨を線で表現しました。

人物を浮き立たせるための、いわばアクセントとして雨を使った春信に続き、歌川広重は「東海道五拾三次之内」の8番目の宿場「大磯」(図版としては9番目)で、そぼ降る雨を線で写実的に描写。45番目の「庄野」(副題「白雨」)では、雨を完全な主役として描き切りました。その後も、ゴッホが模写したことで世界的に有名な「名所江戸百景」の「大はしあたけの夕立」など、さまざまな表情を持つ雨を題材に取り、雨といえば多くの人が広重の絵を思い浮かべるようになりました。それがマンガやアニメの表現にまでつながっていることは皆さんご存じの通りです。

ちなみに「大磯」の副題は「虎ケ雨」。俳句の夏の季語である「虎が雨」は旧暦5月の終わり頃に降る雨のことで、曾我兄弟の仇(あだ)討ちで知られる曾我十郎が5月28日の決行後に命を落とした際、彼と恋仲であり、大磯の遊女だったともいわれる虎御前が涙したことに由来しています。つまり、広重の雨の絵は、現代のマンガ・アニメだけでなく、「曾我物」と呼ばれる能や浄瑠璃、歌舞伎といった芸能とも、ここでつながっているのです。

蛇足になりますが、広重の辞世の歌を紹介したいと思います。

「東路(あずまぢ)へ 筆を残して 旅の空 西の御国(みくに)の 名所(などころ)を見む」

まさに不世出の風景画家の面目躍如。解説はよしましょう。


「クイズで肩慣らし」第34回=「落語」

~第1回検定期間中のクイズは同試験の出題対象から外します。またテキストの分野以外からも取り上げます~

月岡芳年「新形三十六怪撰(しんけいさんじゅうろっかいせん)」

第34回

問題:「四谷怪談」「皿屋敷」と並んで、日本三大怪談話といわれる落語の演目は何でしょうか。3つとも歌舞伎の演目にもなっています。(答えと解説は次号で)


1936年11月に建設された国会議事堂(東京都千代田区)

【前回の問題と答え・解説】
問題:日本の国会が開かれる「国会議事堂」。 建物の象徴となっている中央塔の屋根の部分に当たるピラミッド型の塔屋に、タイルとして使用されている陶磁器は何でしょうか。

答え:信楽焼

解説:昭和63年(1988)、半世紀ぶりの大改修の際、国会議事堂のピラミッド型の塔屋に滋賀県の信楽焼のタイルが使用されました。建設当時の色合いを再現したそうです。なお、国会議事堂は「日本の石材博物館」と呼ばれることもあります。今では生産・発掘されていない貴重な石材も含め、40種類近くの国産石材を見ることができるためです。


伝検協会だより

いよいよ、あす11月29日(金)から伝検の第1回検定が始まります。これを記念して、第1回の合格者全員に伝統工芸の京染めで作った【伝検ロゴ入りカードケース】をプレゼントします! 限定カードケースは合格認定証(クレジットカードサイズを予定)の収納などにご利用いただけます。デザインは伝検公式サイトのお知らせをご覧ください(第1回検定合格者に京染めカードケースを進呈)。2級、3級とも来年1月31日まで受験可能(申し込みは同1月28日まで)ですので、皆さまのチャレンジをお待ちします。受験者の皆さまの合格を祈念しております。


編集後記

伝検通信35号をお届けしました(11月22日発行の臨時増刊号を34号とカウント)。4月から始まった本通信もついに試験開始直前まで来ました。感慨深いです。コンピューターを用いた試験は1月末まで行われ、好きな日時で受験できます。詳しい情報は伝検サイトをご覧ください。

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