2025.11.20
コラム/エッセイ荒茶生産量1位の鹿児島県、多様な品種でニーズに対応
木下朋美=鹿児島県立短期大学生活科学科助教

鹿児島県霧島市の山間地に広がる茶畑(筆者提供)
温かいお茶が恋しくなる季節となりました。今年は日本茶製造の歴史に大きな変化が生じました。
茶生産量日本一は静岡県というのが、統計を取り始めた1959年以来続いていましたが、今年2月に発表された農林水産省の2024年産荒茶生産量(荒茶とは生産者が茶工場で生葉から製造した茶のことで、この統計には煎茶や玉露などさまざまな茶種を含みます)では、鹿児島県が2万7000トンで1位となりました。静岡県は2万5800トンでした。両県の差は年々縮まっており、いつ入れ替わるかという状況でしたが、ついに鹿児島県が日本一となりました。
ただし、24年の製造時期ごとの内訳をみると、一番茶などでは静岡県が上回っており、鹿児島県が日本一になったのは三番茶の製造で大きく上回ったからです。しかし、今年8月に発表された一番茶の25年産荒茶生産量ではついに鹿児島県(8440トン)が静岡県(8120トン)を抜き、一番茶でも首位の座を奪いました。
実は栽培面積では静岡県の方が鹿児島県より1.5倍ほどもあるのに、なぜ鹿児島県が1位となったのでしょうか。
まず、一番茶や二番茶、三番茶、秋冬番茶の違いについて、日本茶の生産量の大部分を占める煎茶を例に見てみましょう。一番茶は新茶ともいわれ、その年の最初に製造される最も品質の良い煎茶となります。二番茶はやや品質が落ち、低価格帯の煎茶に使われることが多いです。三番茶以降ではさらに品質が低下していき、主にペットボトル茶の原料として使われます。
では、取引価格はどうなるでしょうか。一番茶から製造時期が遅くなるにつれて品質は低下しますので、一般的な取引価格は一番茶が最も高く、製造時期が後になるほど相場は下がります。従って、一番茶が生産者の収益の主たるものであり、一番茶の取引価格は二番茶以降の相場にも影響するものでした。
作られたお茶の用途とニーズはどうでしょうか。統計ではリーフ茶(茶葉から急須等を使って淹=い=れるお茶)の消費は減り、茶飲料(ペットボトル緑茶等)の消費が伸びているのですが、リーフ茶の需要が減少したことで価格が崩れ、一番茶の取引価格はこの20年ほどで約30%下がり、24年の平均は1キロ当たり1800円でした。
これは生産者にとって、とても苦しい状況でした。生産者数も煎茶の生産量も年々減少。08年から23年で茶栽培農家戸数は約半数の1万9792戸、煎茶生産量は40%減の3万8418トンとなりました。生産者の高齢化や茶価の低迷により、廃業する生産者や放棄茶園も増えていき、静岡県も例外ではありませんでした。
一方、鹿児島県はというと、後発産地であるため機械化を前提とした茶園造成が行われており(平たん茶園率99.6%)、山間地であってもテラス式にして乗用型摘採機が入れるようにしたり、茶の畝幅(うねはば)を乗用型摘採機の幅にそろえたりして、製造コストを抑えて茶を生産することを可能にしました。そのため、三番茶など価格の低い煎茶を製造することも可能であり、早い段階から三番茶以降の生産量は全国トップレベルでした。また、茶価の低迷が続いても、栽培面積の減少は食い止められていました。栽培品種に関しても全国で最も多く、静岡県で86%を占める「やぶきた」の比率が鹿児島県では29%と低く、多様な品種があることは芽吹く時期の違いで適期摘みができることや多用途に対応できるという大きなメリットを持っています。
有機栽培茶園面積も現在、鹿児島県が全国の約50%を占めており、輸出に向けた取り組みも早くから進めていました。加えて、煎茶だけでなく碾(てん)茶(抹茶の元となる茶)の製造にも力を入れ、碾茶工場を増やし、20年からは碾茶生産量が日本一となりました。その後も増加し、24年には2150トンの生産量がありました。碾茶は煎茶に比べ、新芽を伸ばしてから摘採するため、単位面積当たりの収量も増加することになります。
鹿児島県は生産者、関係団体等の努力の積み重ねで日本一に至ったと感じますが、全国の生産者が減少せずに日本茶を作り続けるためには消費があってこそ、です。一口に日本茶と言っても種類や楽しみ方はいろいろあります。奥深い日本茶の世界を楽しんでみませんか。
木下朋美(きのした・ともみ)=鹿児島県立短期大学生活科学科助教。大妻女子大学大学院修士課程修了。静岡大学大学院自然科学系教育部バイオサイエンス専攻修了。管理栄養士、博士(農学)。お茶好きが高じて高校生の頃からお茶の研究を志し、茶産地にIターン就職。学生とともにお茶の魅力を伝える活動にも取り組む。
https://www.instagram.com/ochaikuken/
カテゴリー: コラム/エッセイ
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