2025.12.18
伝検通信(メルマガ)週刊メールマガジン「伝検通信」 第87号
週刊メールマガジン「伝検通信」第87号をお届けします。
今週のトップ記事は、日本民藝協会常任理事の太田浩史さんに民藝についてインタビューした内容をお伝えします。
「クイズで肩慣らし」は、前回クイズの答え・解説と、「伝統色・文様」の問題です。
第3回伝検(2級、3級)は、来年1月12日(月・祝日)
伝検公式教材・参考書・サイト https://denken-test.jp/
目次
・ 民藝をめぐる問答
・ 「クイズで肩慣らし」 第86回=「伝統色・文様」
・ 伝検協会だより
民藝をめぐる問答
教える人=太田浩史(真宗大谷派大福寺住職) 撮影=平野太呂 文、構成=山本章子

約50年前に手に入れた小鹿田焼の片口。
太田さんに愛され続け、今なお生き生きした生命力が感じられる。
富山県南砺市の真宗大谷派大福寺住職で日本民藝協会常任理事の太田浩史さんに民藝についてインタビューした内容をご紹介します。(雑誌「七緒」vol76_2023年冬号より)
Q1民藝ってなんですか?
A=柳宗悦(やなぎ むねよし)の造語で、民衆的工芸の略。
「柳は、名もなき職人の手から生み出された日常の生活用具を民藝と名付け、美術品に負けない美しさがあると唱えました。柳の言う民衆とはパブリックではなくフォーク。フォークは小高い丘から見渡せるような範囲の民衆で、住む人同士がなんとなくわかっていて、同じ言葉や郷土料理、民謡、踊りを共有できる。そういったフォークのエネルギーを持った場から生まれる工芸品が、民藝です」
Q2民藝の魅力とは?
A=生活の中にある、用の美です。
「民藝は日々の生活の道具なので、使って楽しむもの。昔の日本では、人々が仕事をするときの装いにも気を配っていて、労働が美しかった。労働が美しくないと人生が楽しくない。そういった美意識が、器や布、籠といった生活の道具に息づいています。使うことで〝もの〟の良さを人間が引き出していく。一方的な消費ではなく、お互いを引き立て合う作業から生まれる美だと思います」
Q3なぜ今、若い世代にも人気?
A=民藝はかわいいから。
「今の時代はものがあふれ、機械的ですっきりした〝かっこいい〟ものもたくさんありますが、私たちの文明には昔から〝かわいい〟という感覚があります。かわいいは美しさの中の大事な要素で、温かみがある。だから民藝のものは日本中あるいは世界中のものを並べてもけんかしません。対立ではなく引き立て合う。そういった文化的生存本能を民藝から感じとっているのかもしれません。」
Q4太田さんの民藝との出会いは?
A=物心ついたころにはそこに。
「父や光徳寺の影響もあり、物心ついたころには民藝に囲まれた暮らしをしていました。自分で初めて買った民藝品は小鹿田(おんた)焼。高校生のときに倉敷の工芸展で見つけて、買わずにはいられない気を感じました。仏教的にいえば後光が差していた。色や形だけでなく、佇まいや気を感じるかどうかを大切に見ていくと、自分にとっていいもの、美しいものを見つけることができます。」
Q5民藝の楽しみ方を教えてください。
A=手に入れ、使って、気持ちをシェア。
「民藝は学ぶものではなく、親しむものです。まずは一つ、自分がいいなと思う手仕事のものを生活に採り入れてみてください。器でも、もちろん着物でもいい。よくよく使っていくと美しいだけでなく〝頭が下がる〟という気持ちが芽生えます。それは自然への敬意や信仰心にも近いもの。その感覚を家族や友人とシェアしていくことで、現代の中にもフォークの感覚が育っていくと思います」
Q6今、気になっているアイテムは?
A=布が面白くなってきました。
「最近はイランの手仕事のじゅうたんなどが縁あって集まるようになりました。織、紬(つむぎ)、絣(かすり)といった〝いとへん〟の布は人間の手によって生まれるもので、最も民藝的なもの。もしAIが絣をつくったら、まったくかすれていない完璧な文様が出来上がるのでしょうが、人が織る絣には命の働きがあるから、ある意味かすれざるを得ない。不完全だからこそ美が宿るという面白さがあります」
「クイズで肩慣らし」 第86回=「伝統色・文様」
~伝統文化に関するさまざまな話題をクイズ形式でお届けします~

京都・盧山寺の護符。同寺は紫式部の邸宅跡で、「源氏物語」執筆の地とされています。
第86回
問題:京都の家で戸口に貼られていることも多い、写真の護符(お守り札)はある人物の伝説を元にしています。その人物は誰でしょう。(答えと解説は次号で)

戦隊物のルーツとなったといわれる歌舞伎の演目
【前回クイズの問題と答え・解説】
問題:特撮テレビドラマの戦隊ヒーローが主に5人なのは、ある歌舞伎演目の影響だといわれています。その演目は何でしょう。
答え:青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ 通称:白浪五人男)
解説:青砥稿花紅彩画は河竹黙阿弥作の世話物(江戸時代の庶民の生活を題材にして作られた作品)で、盗賊が活躍する白浪物というジャンルの代表作です。戦隊ヒーローの初代作品となった「秘密戦隊ゴレンジャー」(1975年)のプロデューサーは、見得(みえ)を切ってリズミカルに五人組が名乗っていく「連(つら)ね」を参考にヒーローの登場シーンを作ったそうです。頭領の日本駄右衛門は日本左衛門という江戸時代に実在した盗賊がモデル。五代目尾上菊五郎の当たり役となった女に化ける弁天小僧菊之助が主役の場面だけを上演する場合は「弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)」と題名が変わります。「知らざあ言って聞かせやしょう」というセリフも有名です。
伝検協会だより
▼伝検1級につきまして、実施を2027年2月に決めました。以後も年1回のペースで実施します。試験は記述問題と小論文とします。詳しい日程や実施要項は来年3月末にお知らせします。2級認定者が受験資格を持つ1級は当初、今年度中の実施を目指していましたが、諸般の事情により遅れることをお詫びします。受験者の皆さまに十分な準備期間をご提供しますので、チャレンジをお待ちします。合格者には「日本伝統文化アンバサダー」の称号を与えます。
▼ユネスコの無形文化遺産に12月11日、「和紙」と「伝統建築工匠(こうしょう)の技」、「山・鉾・屋台行事」の3グループに6件の追加登録が決まりました。伝検でも学ぶ和紙には雁皮(がんぴ)を原料に手すきで作られ、「紙王」とも呼ばれる「越前鳥の子紙(とりのこし)」(福井県越前市)が追加。建築工匠では畳表を手で織りあげる「手織中継表(ておりなかつぎおもて)製作」、伝統行事では「常陸大津の御船祭(おふねまつり)」(茨城県北茨城市)、「村上祭の屋台行事」(新潟県村上市)、「放生津八幡宮祭(ほうじょうづはちまんぐうさい)の曳山・築山(ひきやま・つきやま)行事」(富山県射水市)、「大津祭の曳山行事」(大津市)がそれぞれ加わりました。伝検協会としてもこれらの伝統文化の継承を応援していきます。
【編集後記】
今年も残り2週間ほどとなり、来週はクリスマス。本当に一年は早いですね。来年は丙午(ひのえうま)。前回の丙午(1966年)は「迷信」によって出生率が下がりました。迷信の元は井原西鶴の『好色五人女』にも描かれた、放火事件を起こした「お七」が丙午生まれであったことにあるようです。今ならさしづめSNSで拡散される偽情報にあおられる世論でしょうか。今の時代に「迷信」が拡散することはそうそう起きないでしょうが、真偽を見極める目を持ちたいものです。
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