伝統文化を知る

2025.12.18

コラム/エッセイ

民藝をめぐる問答

教える人=太田浩史(真宗大谷派大福寺住職) 撮影=平野太呂 文、構成=山本章子

約50年前に手に入れた小鹿田焼の片口。
太田さんに愛され続け、今なお生き生きした生命力が感じられる。

富山県南砺市の真宗大谷派大福寺住職で日本民藝協会常任理事の太田浩史さんに民藝についてインタビューした内容をご紹介します。(雑誌「七緒」vol76_2023年冬号より)

Q1民藝ってなんですか?
A=柳宗悦(やなぎ むねよし)の造語で、民衆的工芸の略。

「柳は、名もなき職人の手から生み出された日常の生活用具を民藝と名付け、美術品に負けない美しさがあると唱えました。柳の言う民衆とはパブリックではなくフォーク。フォークは小高い丘から見渡せるような範囲の民衆で、住む人同士がなんとなくわかっていて、同じ言葉や郷土料理、民謡、踊りを共有できる。そういったフォークのエネルギーを持った場から生まれる工芸品が、民藝です」

Q2民藝の魅力とは?
A=生活の中にある、用の美です。

「民藝は日々の生活の道具なので、使って楽しむもの。昔の日本では、人々が仕事をするときの装いにも気を配っていて、労働が美しかった。労働が美しくないと人生が楽しくない。そういった美意識が、器や布、籠といった生活の道具に息づいています。使うことで〝もの〟の良さを人間が引き出していく。一方的な消費ではなく、お互いを引き立て合う作業から生まれる美だと思います」

Q3なぜ今、若い世代にも人気?
A=民藝はかわいいから。

「今の時代はものがあふれ、機械的ですっきりした〝かっこいい〟ものもたくさんありますが、私たちの文明には昔から〝かわいい〟という感覚があります。かわいいは美しさの中の大事な要素で、温かみがある。だから民藝のものは日本中あるいは世界中のものを並べてもけんかしません。対立ではなく引き立て合う。そういった文化的生存本能を民藝から感じとっているのかもしれません。」

Q4太田さんの民藝との出会いは?
A=物心ついたころにはそこに。

「父や光徳寺の影響もあり、物心ついたころには民藝に囲まれた暮らしをしていました。自分で初めて買った民藝品は小鹿田(おんた)焼。高校生のときに倉敷の工芸展で見つけて、買わずにはいられない気を感じました。仏教的にいえば後光が差していた。色や形だけでなく、佇まいや気を感じるかどうかを大切に見ていくと、自分にとっていいもの、美しいものを見つけることができます。」

Q5民藝の楽しみ方を教えてください。
A=手に入れ、使って、気持ちをシェア。

「民藝は学ぶものではなく、親しむものです。まずは一つ、自分がいいなと思う手仕事のものを生活に採り入れてみてください。器でも、もちろん着物でもいい。よくよく使っていくと美しいだけでなく〝頭が下がる〟という気持ちが芽生えます。それは自然への敬意や信仰心にも近いもの。その感覚を家族や友人とシェアしていくことで、現代の中にもフォークの感覚が育っていくと思います」

Q6今、気になっているアイテムは?
A=布が面白くなってきました。

「最近はイランの手仕事のじゅうたんなどが縁あって集まるようになりました。織、紬(つむぎ)、絣(かすり)といった〝いとへん〟の布は人間の手によって生まれるもので、最も民藝的なもの。もしAIが絣をつくったら、まったくかすれていない完璧な文様が出来上がるのでしょうが、人が織る絣には命の働きがあるから、ある意味かすれざるを得ない。不完全だからこそ美が宿るという面白さがあります」


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