伝統文化を知る

2024.09.12

コラム/エッセイ

次の一手は「漆ギター」=新しい香川漆器模索=

写真上/漆ギターを手に取材を受ける漆芸家の松本光太さん=香川県綾川町
写真下/栗林公園内の物産館「栗林庵」に並ぶ香川漆器=高松市

多彩で優雅な色漆が美しい香川県の伝統的工芸品「香川漆器」。漆芸工房「さぬきうるし Sinra(しんら)」(香川県綾川町)の漆芸家、松本光太さんは現在、新たな挑戦として「漆ギター」を手掛けている。大量生産のプラスチック製食器の普及などにより衰退し続けている日本の漆芸産業だが、「漆器に興味のない人にも手に取ってもらえるような作品を作りたい」と力を込める。

◇続く「若手の漆芸離れ」

国や県の伝統的工芸品に指定されている香川漆器は、江戸時代に高松藩主が保護したことが始まりといわれ、後期に漆工職人である玉楮象谷(たまかじ・ぞうこく)が技法を確立。蒟醤(きんま)、存清(ぞんせい)、彫漆(ちょうしつ)、後藤塗(ごとうぬり)、象谷塗(ぞうこくぬり)の五つが代表的な技法だ。

これまで、多くの重要無形文化財保持者(人間国宝)を生んでいるが、現在、香川漆器で生計を立てている漆芸家はごくわずか。県によると、高松工芸高校(高松市)には塗りや加飾といった漆芸の技法を教える漆芸科があったが、2003年に生徒の募集を停止し、現在は新設された工芸科の選択コースの一つになっている。同校の漆芸科を卒業した松本さんも「高校で漆芸を専門に扱うところがなくなり、若手の漆芸離れが加速した」と嘆く。

こうした危機感を背景に、松本さんが起爆剤の一つと位置付けるのが、エレキギターの表面に漆を施した漆ギター「サヌキノオト」。たまたま友人から譲り受けたギターを手にした時に、「(漆塗りの)キャンバスにしてみたい」とひらめいたという。

◇未来見据え、新たな可能性模索

最初の作品に用いた技法は蒟醤。漆を十数回塗り重ね、特殊な蒟醤刀で文様を彫り、その溝に色漆を埋めた上で、表面を平らに研ぐことによって文様を描く。「柔らかさの中に力強さを感じてもらえる作品になった」と松本さん。装飾品ではなく、「演者が普通のギターとして弾くことができるものにしたい」と、音色や弾き心地にもこだわった。

松本さんはまた、漆器が日常的に使うものから離れてしまっている現状を危惧している。子どもたちが漆器に触れる機会が減る中、漆器をより身近なものとして捉えてもらおうと、出身校でもある地元の小学校に漆器を無償提供。「小さな頃から漆に親しんでこそ、大人になっても使い続けてくれるはず」と期待を込めながら、(1)毎日使いやすいものである(2)長く使い続けられる丈夫さがある(3)本物の素材を使う―ことをモットーに作品を作り続けている。

香川漆器の技術や伝統を大切にしつつも、松本さんが見据えるのは未来。「まずは関心を持ってもらうことが大切だ」と語り、新たな漆器の可能性を模索している。


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